旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 無人駅のホームに立ち入るには入場料金が必要なのか

 結論を先に書いておきます。入場券が現場で発売されていなければ不要です

 

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 さて、多くの鉄道駅で改札内に入るには入場券が必要ですね(一部の港の桟橋も入場券制度があります。)。

 

 最近は入場券を廃止している鉄道会社も増えています。

 たとえば西日本鉄道は、構内に立ち入る際は、改札口で申し出て、入場証をうけとって無料で入れるようです。土佐くろしお鉄道も同様です。

 名古屋市交通局は、入場券の設定がないので、乗車券を購入させるようです。ただし、次の記事にあるように、理髪店の利用などは無料といった特例措置があるようです(以前は乗車券が必要でした)。

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 逆に入場券が完全に記念券化していて、無駄に入場券の設定を増やしている鉄道会社もあります。究極に記念券化した入場券は下記のようなものです。

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 そう考えると、有償か無償かは鉄道会社によって考え方に違いがあるようですが、入場券を現場で売っていれば、とりあえず購入する必要がありそうですね。

 では、入場券が購入できない無人駅はどうなんだ?って思いませんか。

 

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 ここからはJRを基準に考えてみます。まずは営業規則から探ってみます。

 

(入場券の発売)
第294条
次の各号に掲げる者が、乗車以外の目的で乗降場に入場しようとする場合は、入場券を購入し、これを所持しなければならない。この場合、入場者の年齢別の区分については、第73条第1項の規定を準用する。
(1)大人
(2)小児(大人及び小児が、2人を超える幼児を随伴するときは、その超える幼児については、小児とみなす。)
2
入場券は、駅において、係員又は乗車券類発売機により発売する。この場合、入場券の使用時間を制限して発売することがある。
3
前項後段の規定により入場券の使用時間を制限する場合は、券面に発売時刻及び使用時間を制限する旨を表示して発売する。
4
定期入場券は、別に定める駅において特に必要と認められる場合に限って発売する。
5
入場券は、入場する日の当日に発売する。

 

 「乗車以外の目的で乗降場に入場しようとする場合」とあり、乗降場は旅客ホームを意味しますので、これは無人駅でも妥当しますね。

 しかし、次の入場券を購入し、これを所持しなければならない」という文言は困ってしまいます。無人駅のほとんどは入場券を売っていませんから、不正入場する気はなくても事実上、購入できません。

 それに国鉄時代から一貫して、改札業務を行ってない駅に入場券の設定は基本的にありません(JRになってだいぶ例外が増えています。)。

 

 飯田線宮木駅を例として取り上げます。

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 現在、待合室がある部分に小さな切符売り場があって、そこで乗車券等を売っていました。片側だけの小さなホームで改札口もありません。見た目はローカル線などの雑貨屋さんが掛け持ちしている簡易委託駅のようでした。

 しかし、実際に改札口は存在しなくても、入場券は売っていますし、改札業務は行っていたので、入場券を購入せずに当時の宮木駅に立ち入って写真撮影をしていたら、不正行為となってしまいます。

 なので、そのような運用実態を反映した条文になっています。

 

 日本国有鉄道編『鉄道事典 下巻』(日本国有鉄道、1958年)の1448頁をみると、入場料金について「旅行の目的を持たないものが、旅行する人の見送りまたは旅行から帰還した人の出迎えのため、駅の改札口をとおって乗降場に入場する場合に、必要とする入場券を購求する際に支払う料金である」(平林喜三造執筆)。

 ここからも改札業務を前提とした制度であることがわかります。

 

 以上のことは、次の条文からもわかります。

(入場券の改札及び引渡し)
第299条
入場券は、入場の際に、係員に呈示して改札を受け、かつ、普通入場券については入鋏を受けるものとする。
2
入場券は、その使用を終えたときは、直ちに係員に引き渡すものとする。その効力を失った場合もまた同じ。

 

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 さらに、もうすこし制度趣旨に踏み込んでみます。

 藤野秀起『旅客運送制度の研究』鉄道日本社、1950)264頁によると、入場制度は明治30年に一人1回2銭と設定されたのが起源で、雑踏防止や、それに付随した不正乗車などの防止が目的だったようです。他の文献も同様の見解が書かれています。

 

 それは次の条文を読むと良くわかります。

(旅客の運送等の制限又は停止)
第6条
旅客の運送等の円滑な遂行を確保するため必要があるときは、次の各号に掲げる制限又は停止をすることがある。
(1)乗車券類及び入場券等の発売駅・発売枚数・発売時間・発売方法の制限又は発売の停止
(2)乗車区間・乗車経路・乗車方法・入場方法又は乗車する列車の制限
(3)手回り品の長さ・容積・重量・個数・品目・持込区間又は持込の列車の制限
(4)一時預り品の長さ・容積・重量・個数・品目・取扱時間の制限又は取扱いの停止
2
前項の制限又は停止をする場合は、その旨を関係駅に掲示する。

 鉄道が日本の隅々まで張り巡らされて、黒字だった時代が思い出されますね(オレ生まれてないけど)。

 見送り客などが多い場合は、駅長が発売制限をすることがあったのです。いまでも東南アジアのターミナル駅などでは、治安維持のために入場制限をしたりすることがあります。長距離列車がついたときの改札の人だかりを見ると、往年時の日本国鉄の姿が想像できます。春節時の中国の駅などはこんな感じですね。

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 余談ですが、近藤喜代太郎『国鉄きっぷ全ガイド』(日本交通公社出版出版事業局、1987)308頁に面白い話が出ていました。入場券制度ができる前の官営鉄道では、駅長の承認をもってホームへの入場を許可する制度になっていたのですが、大阪控訴院長(現在の高等裁判所長)を見送るために裁判官らが許可なく改札内に入ったら、駅員に検挙されて、規則通り3倍の運賃を取られたというのです。更に面白いのが、一人が支払いを拒否したため、そのまま警察署に連行されたというのです。大阪駅vs.大阪控訴院ということですね。それがきっかけで入場券ができたみたいです。

 

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 現在は、当初の目的が拡張されて、駅の施設を利用するときなどを含めて、広く入場行為全般を目的としてみているようですね。当然に通り抜け行為も対象となりますので、高尾駅の定期入場券や沼津駅の入場券代用証(今はありません)が存在するわけです。

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 では、入場券制度の目的はおくとしまして、本題に入ります。

 結論は冒頭の通り現場で入場券が発売されてなければ不要です

 以下、理由を述べていきます。

 一番根拠となるのは、入場券を購入し、これを所持しなければならない」という部分です。じっくり読むとわかると思います。入場料金を支払う義務ではなく、入場券を購入する義務です。ということは、事実上、入場券が存在しないということは鉄道会社側が無償で入場させるという黙認(黙示の承諾)があるといえます。

 これは消費者契約法の法意や民法の信義則から、消費者に不利益となるような契約条項は文言に忠実に解釈すべきで、消費者に不利となる無理な類推解釈は許されないという価値判断によります。

 さらに、これまで多くの証言があるように、簡易委託駅の駅員や無人駅に派遣されていた特別改札の駅員さんは無料であると発言しており、すでに事実たる慣習が確立されているといった理由もあるでしょう。私自身も多く耳にしており、無人駅で有料と言われたことは一度もありません。JRの駅員に聞いてみてください。無人駅で入場料金を支払えとは誰も言わないはずです。

 

 これについて、入場券の発売がない駅で入場する場合はどうすれば良いのか?という質問をJR九州にした方がいます。JR九州の回答は、入場料金を集札箱に入れてくださいというものでした。しかし、上記の理由から、この回答は間違っています。

 入場料金がほしければ、きちんと条文を改正するか、入場券を発売するなどの契約の相手方(旅客)に対しての相応な手続きが必要です。改正もせずに安易な類推解釈をしてはいけません。要するに約款違反です。

 まあ、無人駅だらけになったにもかかわらず、有人駅だらけだった時代の条文をそのまま使っているからこういうことになるんでしょうね。飯田線を例にすると、昭和30年代の有人駅の数が、今の無人駅の数とイコールぐらいですから。終電に近づくと、豊川と飯田ぐらいしか開いてないですよ。昔は秘境駅で有名な小和田でさえも24時間駅員がいました(タブレット閉塞の取扱いが主たる理由です)。

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 なお、改札の可否は、運用上の問題であって、入場券の購入可否とは直接関係ありません。

 

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 さて、そうなると、入場券を売っている無人駅はどう考えるか。特に近くの道の駅で売っていた北の大地入場券などが極端な事例として挙げられます。廃止された日高本線新冠駅です。

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 これは、(理論的には)買わないとだめでしょうね。列車がやってこないといっても、鉄道の駅であったことは事実ですし、記念入場券といっても正式な普通入場券なので、新冠駅のホームに立ち入るには、道の駅まで行って購入しないといけません。JR北海道の担当者はそこまでは考えてないでしょうけど。

 ただし、記念目的で発売しているもので、実使用は想定してないという見解も成り立つといえば成り立ちます。

 まあ、堅い話は抜きにして、売っていたら拝観料のようなイメージで買ってあげましょうよ。

 

 では、営業時間外や休日で入場券を売っていない場合はどうなのか。新冠の道の駅が閉まっていたり、浦河駅(下記参照)の営業時間外ですね。もうこれは無料と考えるしかないでしょう。買えないですもん。

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 次に出札や改札が無人になる時間でも入場券を売っている場合はどうなのか。かつての駅家駅のような場合ですね。これは入場券を買う必要があるでしょうね。だって、券売機で売っているので、買えますもん。人が売っているか機械が売っているかだけの差で、売っていることには変わりません。

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 本ブログは更に突き詰めます。

 期間限定で無人駅の記念入場券が発売されていた場合にも購入しないといけないのか。例えば、飯田線秘境駅号10周年記念入場券ですね。このうち、田本、金野、中井侍為栗、千代、相月、柿平伊那田島は開業以来初めて入場券が売られました(「あなたの記念きっぷ」を作った人がいれば別です)。 

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 まあ、この場合はいらんでしょうね。常識に考えて、JRもそんな使い方はまったく想定してないでしょうし。そもそも限定で、競争率が高かったし。

 

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 なお、私の見解は、現行の営業規則を前提とするなら、このような結論になるしかないということです。JR九州の担当者さんも消費者契約の一つであるという観点から回答を再考していただいた方がいいと思います。

 

 ただ、営業規則の内容を改定して、無人駅であっても、集札箱に入場料金を入れさせるような新たな制度を設けることには賛成です。民間企業体であり、少しでも収益を挙げないといけないのですから、捕捉率は悪いにしても、ショバ代というか寺銭はもらっていいでしょう。それも経営戦略の一つです。賽銭箱のようなイメージにすると、多めに入れてもらえる駅とか出てくるかもしれませんが、他方で盗難の危険もありますね。

 特に広告収入を得ているyoutuberの撮影の場合は、商業利用なので入場料金を積極的に徴収するような制度に変更をすることも一考だと思います。

 イベント列車のときなどは、現場で入場料金を徴収したら、警備要員として派遣されている駅員さんのその日の給料分まかなえるんじゃないですかね。

 

 QRコードとか掲示してなんとかペイやクレジットで払ってもらうとかもありでしょう。あるいは駅の自販機に入場券ボタンつけて、ベンダーからフィーバックもらうとか。

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