旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 北陸新幹線延伸開業前後にまたがるきっぷの話

 いろいろなところで質問がでていた件、総ざらいしてみました。

 

1 北陸本線経由の乗車券で新幹線は乗れるのか?

 たとえば、3/15に米原→(北陸本線)→金沢を購入しておいて、敦賀までしかたどり着けなかった場合に翌日の新幹線で金沢に向かう方法です。

 (1)区間変更

 北陸本線と新幹線は別線扱いなので、区間変更となりそうです。新下関・博多間と似たような感じですね。この場合、敦賀→(北陸本線)→金沢と敦賀→(北陸新幹線)→金沢の運賃を比較して差額は徴収する形です。収受額がないので、次のような券面証明になるかもしれません(改札補充券ででだされることもある)。

 追加運賃が必要な区間なら改札補充券で発行となります。

 規則を確認します。

 旅規242条2項には「区間変更の取扱いをするときで、非変更区間と変更区間とを通じた経路が第 68 条第4項の規定により営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する場合は、この取扱いをしない。ただし、営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切る駅までの区間に対しては、乗車変更の取扱いをすることができる。」とあります。

 68条4項を確認します。

4 前各項の規定により、旅客運賃・料金を計算する場合で次の各号の1に該当するときは、
当該各号に定めるところによって計算する。
(1) 計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間営業キロ
擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(2) 計算経路の一部若しくは全部が復乗となる場合は、折返しとなる駅の前後の区間
営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(3) 新下関・博多間の新幹線の一部又は全部と同区間山陽本線及び鹿児島本線の一部
又は全部とを相互に直接乗り継ぐ場合は、次により計算する。

(以下略)

 この例外には該当しません。

 次に、おおもとの68条の1項から3項を確認します。

第 68 条 営業キロ又は擬制キロを使用して旅客運賃を計算する場合は、別に定める場合を除いて、次の各号により営業キロ又は擬制キロを通算して計算する。
 (1) 営業キロ又は擬制キロは、同一方向に連続する場合に限り、これを通算する。
 (2) 当社と通過連絡運輸を行う鉄道・軌道・航路又は自動車線が中間に介在する場合、これを通じて連絡乗車券を発売するときは、前後の旅客会社の区間営業キロ又は擬制キロを通算する。
2 前項の規定は、運賃計算キロを使用して幹線と地方交通線を連続して乗車するときの
旅客運賃を計算する場合に準用する。
3 第1項の規定は、営業キロを使用して料金を計算する場合に準用する。

 適合しそうですが、「別に定める」が気になります。

 今回の場合、新規開業の新幹線区間3/16を有効開始日とする乗車券から発売できるとする通達がありますので、これが該当します。なので、3/15に区間変更の申し出をしても難しいですが、3/16なら可能でしょう。

 ちょうど実例がありました。新大村に到達した最長片道きっぷ第1号の伊藤桃氏の区間変更券です。

 この事例は乗り越しですが、経路変更でも方向変更でも解釈は同じです。

 ということで、区間変更券での処理はあり得るでしょう。やったとしても間違いではないと思います。

 

 なお、JR西日本コールセンターの見解では区間変更は不可との伝聞情報をもらっていますが、3/16時点ではすでにJR線として有効な線路なので、ちょっと無理な解釈だと思います。もちろん、249条の「あらかじめ係員に申し出て、その承諾を受け」という部分にある程度の裁量を認めるならば、このJR西日本の見解も成り立つとは思いますが、従来、この「承諾」にはそこまでの裁量性は認めていません。本来は運送区間の契約変更意思をお互いに確認するという契約条件を変更する法的な行為を意味します。

 旅客に損をさせても区変を断るというのは営業規則に反する可能性が高いですね。

 

 (2)無手数料払い戻し

 もう一つは未乗車区間の払い戻しです。

 通常、任意の払い戻しの場合は、100キロを超えた距離が残ってないといけませんし、手数料が必要ですが(旅規274条1項)、今回はこちらではありません。

 通達で運行不能の場合の規定(旅規282条の2)を用いることとしているので、未乗車区間の距離制限はありませんし、手数料は不要です

 廃止路線がでたときの通例ですね。JR西日本では運用上、こちらの手段をとっているようです。旅行を中止することもできるので、旅客に有利な処理ですね。

 

2 北陸本線北陸新幹線への通し乗車券は購入できるのか?

 たとえば3/15乗車日で、敦賀で一泊しながら米原→金沢と移動する場合です。

 購入できません。前述の通達の通り3/16以降の有効開始日の乗車券しか売れませんので、3/15からではまとめて購入することはできません。3/15米原敦賀/3/16敦賀→金沢と分けて購入することになります。

 ただし、通達レベルで旅客の権利関係を規制することはコンプラ上、非常に問題をはらんだ取り扱いであることは指摘しておきます。旅規の中に「新規で開業する区間がある場合は開業日以降に有効開始日となる乗車券類に限って発売する」などといった規定を置かないと本来は有効ではありません。JRさんあてにこの点の欠陥を指摘しておきます。

 

 この部分をもう少し敷衍します。関係する規定は二つです。

 まずは普通乗車券の前売りの規定。

第 21 条 乗車券類は、発売当日から有効となるものを発売する。ただし、次の各号に掲げる乗車券類は、当該各号に定めるところによって発売する。

 (1項略)

2 前項の規定によるほか、次の各号に掲げる乗車券類は、当該各号に定めるところにより発売する。

 (1) 普通乗車券普通急行券又は自由席特急券(第 57 条第1項第1号ハの規定により2人の旅客が特別急行列車の寝台車に乗車し、1個の寝台を使用する場合に発売するものに限る。)は、同時に使用する指定券を発売する日又は呈示した日から発売する。

 同時に使用する指定券を発売する日であれば可能ですから、2/16から発売できることがわかります。

 

 今一つは運行不能時の規定です。

第7条 列車の運行が不能となった場合は、その不通区間内着となる旅客又はこれを通過しなければならない旅客の取扱いをしない。ただし、運輸上支障のない場合で、かつ、旅客が次の各号に掲げる条件を承諾するときは、その不通区間内着又は通過となる乗車券を発売することがある。

(1) 不通区間については、任意に旅行する。
(2) 不通区間に対する旅客運賃の払いもどしの請求をしない。
2 前項ただし書の規定は、急行券、特別車両券、コンパートメント券又は座席指定券について、これを準用する。ただし、不通区間通過となる場合でその前後の区間の乗車列車について接続の手配を講じたときに限る。
3 列車の運行が不能となった場合であっても、当社において鉄道・軌道・自動車・船舶等の運輸機関の利用又はその他の方法によって連絡の措置をして、その旨を関係駅に掲示したときは、その不通区間は開通したものとみなして、旅客の取扱いをする。

 普通に3/15からの乗車券は発売しているので、どう考えても不能じゃないですよね。

 

 ちなみに、6条に「旅客の運送等の円滑な遂行を確保するため必要があるとき」は乗車券の発売を制限することができるとの規定がありますが、そのような事実もないので、該当しません。

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3 特急しらさぎ65号に乗車する場合

 特急しらさぎ65号は最終列車ですが、なんと0時を過ぎても運転します。ということはハピラインとIRの区間にJRの列車が運転されるわけです。

 (1)3/15から乗っている方

 2日間有効の乗車券の場合は普通に3/16まで有効なので問題ないですよね。

 では、3/15に福井で乗って、芦原温泉で降りる人はどうなるのでしょうか。旅規155条の継続乗車制によって可能です。都心の終電間際の人たちがよく使っている制度です。

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 (2)0時を過ぎた3/16に乗る方

 そうなると、0時を過ぎた芦原温泉加賀温泉、小松で乗る方はどうなるのでしょうか。継続乗車制は使えません。この場合は、旅規280条と基準規程346条で可能となります。旅規280条は申告して乗車する旨が書かれていますが、基準規程346条は「その乗車駅において最終の列車等と認められるものについては、その証明があるものとみなしてその取扱いをすることができる」とありますので、改札口で前日の乗車券を見せたら乗車可能です。

 乗車は改札口を通ることを意味しますので、芦原温泉乗車時に0時前なら継続乗車、0時からは基準規程346条の適用です(改札が無人で自動改札機も作動してない場合は列車への乗車が基準です。)。

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 本ブログはここで終わりません。

 敦賀→(北陸本線)→金沢→(北陸新幹線)→小松は買えるのでしょうか。

 無理です。新幹線の新規開業区間は3/16を有効開始とする乗車券に限って発売するという通達があるので、金沢までしか購入できません。

 では、原券を3/15敦賀→金沢(2日間有効)として、小松までの区間変更はどうか。3/16も有効な乗車券なので、金沢下車前なら取り扱う可能性もありますが、打ち切り計算になるので、事務手間の観点から断るでしょう。旅客側に損がないので、断っても事実上、問題がない事案です。前出の区間変更券の事例にもある通り、発行しても間違いではないです。

 

 次に3/15福井→(北陸本線)→金沢の乗車券(1日間有効)で小松まで乗り越す場合はどうか。

 3/15の時点では新幹線は開業してないので、乗り越し申告はできませし、3/16になった時点では原券の有効期限切れです。

 

 最後に小松→(北陸本線)→金沢→(北陸新幹線)→小松はどうか。

 これは事実上、できません。前述の通り、3/16の北陸本線の乗車券は発売せず、前日の3/15の乗車券を用いるので、3/16日開業の新幹線とは日付がずれます。

 同様に申し出た日はすでに有効期限切れです。これが3/16の乗車券として発券された場合は区間変更の原券として新幹線区間への乗り越し処理することができます。

 

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 となると実際に3/16の乗車券として発券できてしまったこちらは?

 誤発券でした。電話がかかってきて、変更しに来てほしいとのことなので、行ってきました。片道だけだと出せないようですが、特急券と一緒だと出せてしまうとのことでした(いまは制限されているようです)。

 

 次に自由席特急券の場合です。乗車券のような規定がないので3/16で発行されます。

 こちらは継続乗車の規定はないので、3/16として出さざるをえないのでしょうね。

 

 ちなみにむかしは特急券急行券は2日間有効でした。

 これなら今回の問題は生じなかったですね。

5 なぜ3/16の乗車券を売りたくないのか

 ここは、完全にわたくしの勝手な推測です。

 3/16に線籍が切り替わることは決まっているので、3/16に運転する列車については、JRがハピラインとIRの線路を借りて運行するという理解になるのだと思います。しかし、このような場合は、線路使用料を支払ったうえで、運賃収入は線籍のある会社の収入とするのが通常です。

 まさか、JRがハピラインとIRの収入を勝手に持っていくようなことはないと思うで、終電までの収入はJRがいただく取り決めがあるのでしょう。

 

 となれば、別に3/16の乗車券を売ってもいいはずです。なぜ売らないのか。

 会計上の問題と思われます。企業会計の場合、税務上、売上確定日が重要となるので、3/16に発行すると3/16の売上処理の手間が増えるのでしょう。もちろん事前に発行したものはその日の売上になるので問題ないと思いますが、3/15の深夜、つまり3/16に日付が替わったところで売る場合はこの問題が出てきます。

 いまひとつ。3/16有効の乗車券を持っている人が乗り遅れた場合に払い戻しに来るからです。3/16に損金処理をすると、これまた事務手間がかかる。この点も防止するために3/15の乗車券を発行する運用上の便宜措置を行っているのではないでしょうか。

 

 6 乗継割引特急券

 同じ日に乗継割引制度も廃止となりますし、金沢が乗継可能駅なので気になります。

 たとえば、敦賀→(3/15在来線特急)→金沢→(3/16新幹線)→東京などの場合ですね。

 特急券は乗車券と連動しないので、購入可能です。また乗継割引は往復や連続でも可能なので、敦賀→(3/15北陸本)→金沢→(3/16新幹線)→敦賀や、敦賀→(3/15北陸本)→金沢→(3/16新幹線)→小松も購入可能です。

 詳しい事情は一つ前の次の記事で詳述しています。

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