丸と四角のメガネもありますが、下車代印も丸と四角がありますよね。
今回は、この点を深堀りしてみます。
まずは丸の事例です。
弁天町の駅名が丸になっているので、途中下車印ですね。大阪駅で下車したという印のために弁天町駅が代わりに押したということです。
次に四角の事例です。
金山駅下車代のあと四角の名古屋となっているので、駅名小印で証明しているわけです。
では、丸の途中下車印を使うのが正解なのか、四角の駅名小印を使うのが正解なのか。かなりマニアックな問題を掘り下げてまいります。
まずは、上の乗車券の事例から振り返ります。
福岡市内から横浜市内まで行く際に大阪で乗り換えて、いったん弁天町に行きたい場合です。支払う方法は三つに分けられます。
A 博多や途中駅の広島などで大阪→弁天町の乗車券をあらかじめ購入しておく場合
B 車掌や大阪の改札で区間変更を申し出て、大阪→弁天町の別途乗車券(分岐片道)を購入する場合
C 無札で弁天町まで行き、大阪→弁天町の運賃を精算する場合
関連する規定は二つあります(カッコ内の※は引用者補足)。
旅客営業取扱基準規程
(併用乗車券の入鋏方)
第247条(1項略)
2 2区間以上の乗車券を併用して乗車する旅客が、第2券片区間で途中下車をする場合は、当該下車駅で第1券片を回収のうえ、第2券片に入鋏し、裏面に「何駅代」の例により記入し、これに駅名小印を押さなければならない。第3券片以下の区間で途中下車をする場合も、この例によるものとする。
3 規則第20条第1項第2号(※1)又は同第247条(※2)の規定によつて発売した普通乗車券を使用して当該券片区間の駅に下車した場合で原乗車券を回収することができないときは、第271条第1項第1号及び同項第2号の規定(※3)によつて取り扱つたものであるときを除き、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。
(1) 第271条第1項第3号の規定によつて取り扱つたものであるときは、原乗車券に表示された「何駅分岐」の箇所に途中下車印を押す。
(2) 前号以外のときは、原乗車券の券面に「何駅代」の例により記入し、駅名小印を押す。
※1:券面の未使用区間の駅からの乗車券を他の駅でも購入できる規定(他乗代の一つ)。上記の事例に則せば、博多や広島で大阪→弁天町の乗車券を購入できるということを意味します。
※2:乗車変更を申し出て、打ち切り計算になるため、別途乗車券を発行する場合です。
この規定は2枚以上の乗車券を併用する場合の取り扱いについて明記されている総則のような規定です。
2項の規定は入鋏の方の話です。詳しくは下記を参照してください。
3項に途中下車の際の取り扱いがあります。併用する場合なので、上記のABの事例が該当します。Cは無札なので、適用されません。
先に3項の※3部分の例外規定から確認します。
例外にあたるのは次の規定です。
旅客営業取扱基準規程
(別途乗車の取扱方)
第271条 車内補充券又は改札補充券の事由欄を「分岐」とする別途乗車の取扱いをする場合は、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。(1)分岐駅において取り扱う場合は、原乗車券に途中下車印を押す。
(2)分岐線内の分岐駅以外の駅において取り扱う場合は、原乗車券の券面に分岐駅名及びその要旨を「何駅代」と記入し、途中下車印を押す。
(3)前各号以外の場合は、原乗車券の券面に分岐駅名及びその要旨を「何駅分岐」と記入して証明する。2 (略)
1号は、分岐駅とあるので、上記の事例では大阪で取り扱うことを意味します。大阪駅の精算所もしくは改札で申し出て、大阪→弁天町の別途乗車券を購入する場合です。改札を出なくても、途中下車扱いとなるので、大阪駅の途中下車印を押されます。現在では、発行手間の省力化のため、いったん改札を出てから買いなおすか、着駅で精算するように案内されます。
2号は、分岐駅以外の分岐線内なので、福島・弁天町間を指します。あまりないと思いますが、西九条で、大阪→弁天町の分岐片道乗車券を購入する場合なども含みます。 上記でいうと、Bです。この場合は処理した駅の途中下車印ですね。
3号は、上記以外なので、車掌が取り扱う場合などです。山陽本線や東海道本線の車掌が分岐片道乗車券(大阪→弁天町)を発行した場合、手書きで「大阪駅分岐」と原券に記入するわけです。また、いまは車発機を持ってないかもしれませんが、大阪環状線の車掌が記入することもあり得たでしょう。
それでは、もとの247条3項2号に戻ります。
上記の※3を除いた部分なので、この1号から3号に該当しない形態を意味します。もうお分かりのようにAタイプとなります。大阪に着く前にどこかの駅で大阪→弁天町の片道乗車券を購入していた場合は、弁天町駅でそれを回収して、原券に「大阪駅代[弁天町]」と駅名小印を押印することになります。
ちなみに3項1号には「第271条第1項第3号の規定によつて取り扱つたもの」は途中下車印とあるので、先ほどの「大阪駅分岐」と車掌が書いた後に弁天町の下車印が押されます。こちらの取り扱い方法を知っている車掌や駅員は少なくなってきたと思います。
ここまでの条文の構成を図示しておきます。
さて、Cの事例が当てはまらないので困りますね。無札なので乗車券は併用してないことから247条3項にも該当せず、改札補充券も車内補充券も発行されてないから271条にも該当しないからです。
271条の規定が247条3項の特別規定と考えられるので、併用乗車券に準じるしかありません。無札ですが、JRの黙示の承認がある無札乗車と認められるので、乗車券を併用していると考えて、247条3項を類推適用するのです。となれば、同条2項により駅名小印となります。
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ということで、下車代印の結論としては、
単に乗車券を併用するだけ(A)→駅名小印で証明
別途乗車券(分岐乗車券)利用(B)→途中下車印で証明
着駅精算(C)→駅名小印で証明
となります。
実際の利用はCが多いと思うので、駅名小印で配備する方が適切といえます。国鉄時代は圧倒的に途中下車印の事例がほとんどだったので、改札補充券や車内補充券でしっかり分岐で売ることが想定されていたのだと思います。駅名小印バージョンが登場したのはJRになってからです。それもCのように分岐した先の駅で着駅精算する事例が圧倒的だからなのでしょう。
JR北海道・東日本・東海の場合、駅名小印バージョンが多いのですが、実際の利用形態を反映して汎用性のある形にしてあるのだと思います。JR西日本に多い途中下車印バージョンの方は、国鉄時代からの慣例を踏襲しているのでしょう。
ま~、どっちでもいいんでしょうけど。こだわれば、以上のような理由です。
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本ブログはここで終わりません。
なぜ駅名小印をもちいる場合と途中下車印をもちいる場合の規定がそもそもあるのでしょうか。ここからは推測です。まず、Aの場合は、それぞれの乗車券が関連していません。運送契約が福岡市内→横浜市内と大阪→弁天町の二つに分かれ、単に2枚をセットで使っているだけです。バラバラの運送契約がたまたま大阪で接続しているだけです。
他方で、Bの場合は、福岡市内→横浜市内の運送契約に付随して大阪→弁天町間の運送契約があるからでしょう。
Aの場合は、下車駅である弁天町が関係しない券面証明なので、券面証明一般に使われる駅名小印、Bは大阪駅の途中下車の延長なので途中下車印という背景にある理論上の事情から定められていると思います。国鉄の官僚が考えそうな緻密な思考です。
そう考えると、JR北海道、東日本、東海は、ごちゃごちゃ言わずに券面証明一般に準じて駅名小印で統一した方がシンプルという発想から来ているのかもしれませんね。
24/5/16 補足 なんとハイブリット型の下車代印がありました。
相当昔に古物屋で拾ってきた、札幌駅の改札に設備されていたと思われる、桑園駅下車代印です。
— いーえる (@el120meitetsu) 2024年5月16日
縦書きなのが気になるところ。 pic.twitter.com/upSZfFOeq6
これは効率がいい。
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ちなみに、当時は上記の福岡市内→横浜市内の乗車券で弁天町で純粋な途中下車とする場合もありました。現在の旅規70条に相当する規定が大阪エリアにもあったので、下図のように移動すれば余計な運賃はかかりませんでした。もちろん時間はかかります。