旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 北千住・綾瀬の怪 1 この区間のJR乗車券はなぜ購入できないのか?

 JRの旅客営業規則16条の5には不思議な規定がぽつんと置かれています。

常磐線北千住・綾瀬間相互発着となる旅客の取扱い)
第16条の5
常磐線北千住・綾瀬間相互発着となる旅客に対しては、乗車券類の発売を行わないものとする。

 じっくり読むと、どうやら常磐線だけを経由するこの区間の乗車券が購入できないことがわかります。

 時刻表を見ても、どちらとも常磐線の駅として存在しているので、何のことなのかよくわかりません。


 では、この区間に乗りたい場合はどうすればいいの?といった疑問がわくと思います。答えは東京地下鉄(以下「東京メトロ」という。)の乗車券を購入することになります。これは現場に行くとよくわかります。私は、学生時代は亀有に住んでいて、常磐緩行線(千代田線に直通する常磐線の各駅停車)に乗ってから山手線の内側まで通っていました。最初はJRだけで通学定期券を購入していたのですが、乗換えが北千住、上野、秋葉原と3駅にもなる上、北千住駅の地下から最上階の常磐快速線に乗りかえるのが苦痛でした。結局、1か月で払い戻して、千代田線経由に変更しました。

 ちなみに規定に「常磐線」となっていることからわかるように常磐線経由でなければ購入することができます。北千住→日暮里→秋葉原西船橋→新松戸→綾瀬です。この乗車券で東京メトロの北千住→綾瀬は乗れません。

 

 さて、この不思議な現象は、東京メトロの千代田線の開通が影響しています。もともと綾瀬駅国鉄の駅でしたが、東京メトロの前身である帝都高速度交通営団(通称「営団地下鉄」)の千代田線の延伸と常磐線複々線化に際して、綾瀬を乗換駅とせずに北千住を乗換駅としたことから、旅客制度上、ねじれた関係になりました。
 当時の開通前と開通後の乗車券を比べてみます。

 上が国鉄時代の乗車券で、下が営団地下鉄時代の乗車券です。上のタイプの乗車券が本規定の創設で売れなくなった乗車券です。 

 図でわかるように、松戸方面から常磐緩行線(各駅停車)の列車に乗って行くと、そのまま東京メトロ千代田線に行かざるを得ません。線路の所属会社を前提にすると、金町や亀有から上野まで行きたい方が綾瀬・北千住間だけ東京メトロの乗車券を購入する羽目になってしまい、随分と損をするように見えます。そこで千代田線直通の常磐緩行線に乗って、北千住で常磐快速線に乗り換える場合はJR線だけに乗っていると想定して運賃計算がなされるのです。しかし、綾瀬と北千住間だけを乗る場合は東京メトロ区間なので、JR線としては乗車券を売るわけにはいきません。そこで冒頭の規定をもってこの区間のJR乗車券の発売を制限しているのです。
 他方、東京メトロにも対応した規定が置かれています。距離からすれば、初乗りの180円なのですが(東京地下鉄・旅客営業規程51条の規定にバリアーフリー料金10円加算)、この区間だけ150円とする特例運賃が設定されています(同52条にバリアーフリー料金10円加算)。

 これはJRの運賃体系に合わせているということです。さらにその背景をたどると、北綾瀬駅の先に東京メトロ車両基地を造りたいという意図と国鉄複々線化の建設費用を安くしたいといった思惑の合致もあって、北千住・綾瀬間は東京メトロなのです。非常に複雑な歴史的背景がわかると思います。
 なお、この区間は、別の側面で社会的な問題を引き起こしています。常磐快速線がとまらない亀有と金町の一部の住民らから不当運賃であると訴訟を起こされており、本記事の執筆現在、継続中です(「亀有・金町の鉄道問題を考える会」https://kamekana.tokyo/ が詳しい。)。わたくしが亀有に住んでいた時代に経験したように不便さや運賃の負担に対する不当性を根拠としています。

 

次回は綾瀬駅入場券の不思議を取り上げます。

 

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 ちなみに伯備線井原鉄道にも不可思議なルールがあります。

 総社・清音の怪は下記を参照ください。

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