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【営業規則系】 新幹線と山陽本線・鹿児島本線はどのように別線扱いなのか? 新下関⇔博多の怪 第2弾

 ひそかに人気のこちらのコーナー。もう少し踏み込んだプロ向けの解説です。適用条文が入れ子関係になっているので、相当複雑ですよ。

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 先にポイントをお伝えしますと、純粋に別線扱いではない亜種ということです。

 運賃計算や経路変更では別線路として扱いますが、両路線使って行って帰る場合に片道で発売はできません。

 例えば、品川→(新幹線)→小田原→(東海道線)→品川は片道で購入できますが(※)、新横浜→(新幹線)→小田原→(東海道線)→横浜→(東海道線)→品川→(新幹線)→新横浜は片道で購入できますが、小倉→(新幹線)→博多→(鹿児島本線)→小倉は購入できないといった場面です。

 ※2024.2.7訂正 別線区間とする場合の両端の駅が発着駅や接続駅になる場合はこの規定が適用されませんので、例示を訂正しました。詳細はコメントでの指摘。

 

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 この場合は同一路線として考えるので、引用元の記事のように「幽霊折尾駅」が新幹線上にあるという想定となるのです。

 

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 まず、上記2例の違いがどこから来るのか、営業規則の条文をみてみます。

 

(新幹線と新幹線以外の線区の取扱いの特例)
第16条の3
次の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区に関し、第26条第1号ただし書、第2号ただし書及び第3号にそれぞれ規定する普通乗車券の発売、第68条第4項に規定する旅客運賃計算上の営業キロ等の計算方並びに第242条第2項に規定する区間変更の取扱いにおける旅客運賃・料金の通算方又は打切方については、前条第1項の規定を準用する。
山陽本線新下関・門司間及び鹿児島本線中門司・博多間    山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間及び鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間

 新下関~博多間の新幹線と在来線は地図上、分離しているので、別線扱いなのですが、この規定で明記されている範囲に限っては、同一線路扱いになります。それが「前条第1項の規定を準用する」という文言です。

 前条第1項は次の通りです。

東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)及び鹿児島本線(新幹線)に対する取扱い)
第16条の2
次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする。

 品川~熱海間と比較して表で整理してみます。黄色がそれぞれ該当する部分です。

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 このうち、16条の3が適用されなければ、香椎→西小倉は別線扱いにできるのですが、残念ながらできないわけです。上図の赤枠に該当し、同一路線とみるからです。

 黄枠の部分なら、別線扱いなので、別線への経路変更という意味で区間変更券が発行されるわけです。

 

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 ここから更に複雑になります。興味のある人だけ進んでください。上記の赤枠に属する意味を読み解いていきます

 

 理屈はこうです。赤枠に挙げた16条の3がそれぞれ引用している条文を見てみます。

 (1)26条1号ただし書きに規定する普通乗車券の発売

(普通乗車券の発売)
第26条
旅客が、列車に乗車する場合は、次の各号に定めるところにより、片道乗車券、往復乗車券又は連続乗車券を発売する。
(1)片道乗車券
普通旅客運賃計算経路の連続した区間を片道1回乗車(以下「片道乗車」という。)する場合に発売する。ただし、第68条第4項の規定により営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する場合は、当該打切りとなる駅までの区間のものに限り発売する。

 68条4項の規定で打ち切り計算となる場合に、それにそって発売することが書かれています。

 では、68条4項にどうあるのでしょうか。

(旅客運賃・料金計算上の営業キロ等の計算方)
第68条
営業キロ又は擬制キロを使用して旅客運賃を計算する場合は、別に定める場合を除いて、次の各号により営業キロ又は擬制キロを通算して計算する。
(1)営業キロ又は擬制キロは、同ー方向に連続する場合に限り、これを通算する。
(2)当社と通過連絡運輸を行う鉄道・軌道・航路又は自動車線が中間に介在する場合、これを通じて連絡乗車券を発売するときは、前後の旅客会社の区間営業キロ又は擬制キロを通算する。
2
前項の規定は、運賃計算キロを使用して幹線と地方交通線を連続して乗車するときの旅客運賃を計算する場合に準用する。
3
第1項の規定は、営業キロを使用して料金を計算する場合に準用する。
4
前各項の規定により、旅客運賃・料金を計算する場合で次の各号の1に該当するときは、当該各号に定めるところによって計算する。
(1)計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(2)計算経路の一部若しくは全部が復乗となる場合は、折返しとなる駅の前後の区間営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(3)新下関・博多間の新幹線の一部又は全部と同区間山陽本線及び鹿児島本線の一部又は全部とを相互に直接乗り継ぐ場合は、次により計算する。
ア 山陽本線新下関・門司間及び鹿児島本線中門司・小倉間の一部又は全部(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)と山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)とを新下関又は小倉で相互に直接乗り継ぐ場合は、新下関又は小倉で営業キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
イ 鹿児島本線中小倉・博多間の一部又は全部(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)と鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)とを小倉又は博多で相互に直接乗り継ぐ場合、小倉又は博多で営業キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(注)東海道本線中金山・名古屋間と中央本線中金山・名古屋間とは同一の線路である。

 1号と2号は分かりやすいと思います。1号は一周したら、ぶつかったところで切りますというメジャーなルールですね。2号は折り返す場合は、折り返し駅で切るという典型的な連続乗車券の形です。 

 3号がややこしい。簡単に言うと、新下関⇔博多間で、新下関、小倉、博多で新幹線と山陽本線鹿児島本線を相互に乗り継ぐ場合は、それぞれの接続駅で運賃計算を打ち切りますという意味です。

 図示してみます。

 

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 これでわかりやすいと思います。

 早い話、このような乗継は同一路線として扱うということです。

 
 

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 ちなみに「同区間以外の区間をまたがる場合を含む」とあるので、新大阪から来て、小倉で乗り換えて戻る場合も接続駅である小倉で切ることとなります。この場合は、大阪市内→北九州市内と、門司(北九州市内の端の駅)→新下関の連続乗車券になります。

 ここで鋭い人は、下記で取り上げた「鶴見→蒲田」「東京都区内→神戸市内」の連続乗車券は、なぜ「鶴見※→(東京経由)→神戸市内」の片道乗車券で売らなかったのか?と疑問に思うかもしれませんが、連続の方が安いからです希望すれば、無駄を承知で片道で購入することが可能でした(現在なら品川経由)。鶴見から東京の間で途中下車する場合は、少し高くても通しで購入した方が安くなりますね。

 ※鶴見は横浜市内ですが、横浜市内をでて横浜市内を再度、通る場合は、単駅名で発売します。

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 新幹線を小倉で下りて鹿児島本線に乗り換える場合は、この規定は適用されず、別線扱いになります。なので、リンクにある専用の区間変更券が発行されるわけです。

 

 (2)26条2号ただし書きに規定する普通乗車券の発売

(普通乗車券の発売)
第26条
旅客が、列車に乗車する場合は、次の各号に定めるところにより、片道乗車券、往復乗車券又は連続乗車券を発売する。
 (略)
(2)往復乗車券
往路又は復路とも片道乗車券を発売できる区間であって、往路と復路の区間及び経路が同じ区間を往復1回乗車(以下「往復乗車」という。)する場合に発売する。ただし、往路と復路の経路が異なる場合であっても、その異なる経路が第16条の3に掲げる左欄及び右欄の経路相互である場合は往復乗車券を発売する。

 この規定は、新下関⇔博多間を新幹線で行って在来線で戻る時の規定です。このときは、別線路ではなくて、同一線路となるので、往復乗車券が発売できるわけです。

 このときに補充券の事由に「新在往」「新在復」が加わりました。新幹線+在来線で往復する場合の「往」と「復」という意味です。

 

 (3)26条3号に規定する普通乗車券の発売

(普通乗車券の発売)
第26条
旅客が、列車に乗車する場合は、次の各号に定めるところにより、片道乗車券、往復乗車券又は連続乗車券を発売する。
(略)
(3)連続乗車券
前各号の乗車券を発売できない連続した区間(当該区間が2区間のものに限る。)をそれぞれ1回乗車(以下「連続乗車」という。)する場合に発売する。

 連続乗車券を発売するときも同様ですね。

 

 (4)68条4項に規定する旅客運賃計算上の営業キロ等の計算方

 上述で取り上げたとおりです。

 

 (5)242条第2項に規定する区間変更の取扱いにおける旅客運賃・料金の通算方又は打ち切方

 (乗車変更の取扱範囲)
第242条
乗車変更の取扱いは、その変更の開始される駅の属する券片に限って取り扱う。ただし、第248条に規定する乗車券類変更については、変更開始駅は、制限しない。
2
前項の場合で、区間変更の取扱いをするときで、非変更区間と変更区間とを通じた経路が第68条第4項の規定により営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する場合は、この取扱いをしない。ただし、営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切る駅までの区間に対しては、乗車変更の取扱いをすることができる。

 ここでも68条4項が登場します。運賃が打切りになる場合に区間変更券は発行しないということです。別途片道券や分岐片道券などが発行されます。

 

 相当ややこしいでしょ?

 営業規則の中でもトップクラスの複雑さです。自分も書きながら、何回も元条文に行ったり来たりしました。