旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 絶滅危惧種 忘れ物をただで送ってもらう制度

 かつて国鉄やJRには遺失物を回送してくれるサービスがありました(現在は削除されている)。

 

 【有償回送】

 こちらは国鉄で行っていた小荷物輸送(詳細は下記)を使って、有償で希望の駅まで回送してもらうサービスです。

 遺失者だけではなく、保管期間がきれて所有権を取得した拾得者にも適用されていました。鉄道会社の場合は、一定の遺失物は警察に届けだけ出して、その会社で保管するので、こういった措置をとっていたのです。(営業規則旧325条)

 

www.estoppel.jp

 

 【無償回送】

 もっと手厚いサービスがこちら。なんとただで送ってくれる

 ただし、物は限定されていますし、拾得者はつかえない制度です。

 「傘、つえ、帽子、ハンドバッグその他これに類する身の回り品であつて、重量が5キログラム以内で、かつ、取り扱い上支障を生ずるおそれがないと認められるときは、1回に限り、遺失者の申出により別に定める駅のうち、その指定する駅まで回送の扱いをする」(営業規則旧326条)。

 

 確かに当時の遺失物切符の裏は遺失物回送切符となっていました。

 そこで、小学生の時のことを思い出しました。買ったばかりの本(たぶんコロタン文庫)が入った袋を飯田線の網棚に忘れたことです。すぐに下車駅で伝えたら、中部天竜駅の長時間停車で発見され、最寄り駅に回送してくれました。到着の連絡をもらって、夜中に駅に取りにいった記憶があります。当時は駅員さんのイレギュラーの好意だと思っていたのですが、制度的な裏付けがあったと、数年後に営業規則を読んでいたときに気づいた次第です。

 この知識が活かせたのは駅員をやっていたときです。当時、このような回送規定はほぼ死文化していて、実務上は自分で取りに行ってもらう措置にしていました。あるとき英語しか話せない外国人が忘れ物をしたらしく、駅の窓口にいました。ちょうどわたくしの出勤時間で、前任者が会話に困っていたので、対応を代わりました。どうやら鞄一式を網棚に忘れたらしいのです。一通り聞き取って捜索依頼を出すと、終点でなんとか見つかったのですが、行かせても、また困るだろうと思いました。そのときこの回送規定を思い出し、戻してあげたところ、すごく感謝されました。たぶん忘れ物が見つかったことと、それを回送してくれる日本の鉄道スゲーって印象だったのではないでしょうか。他の駅員が忘れているような規定をほじくり返して適用したわけです。

 ちなみに、これで見つからない場合は、各停車駅に電話で伝言をします。近い順に停車駅ごとに伝言ゲームをしてもらい、見つかった駅から返信があるか、終点でなかった旨の返事をもらうわけです。たまに途中で途切れてその日のうちに返事が来ないこともありました。

 

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 なお、上記の回送規定は連絡会社間でも適用されていたので、なんと会社が違っていても、回送できたのです。

 

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 さて、ここで終わらないのが、本ブログです。

 この規定が残っている会社を探しました。意外とあります。首都圏だと、東急、小田急東武。地方のローカル線ならまだまだ残っています。どこまで実務上、やっているかわかりませんが、困ったらお願いしてみてもいいと思います。特に試験前などで時間がない場合は、取りに行っているより戻してもらった方が時間の節約になるでしょうし。どこの会社も規定は営業規則の一番後ろにあるので、駅員さんが知らなかったら、営業規則の後ろの方を見てもらってください。

 覚えておいて損のない規定です。きちんとお礼の言葉はしてあげてくださいね。

www.estoppel.jp