旅と鉄道の美学

鉄道を中心とした国内外の旅と切符などについて語ります。

【コラム】 コスプレ車掌に5000万円を預けたら持ち逃げされました。(国鉄の小荷物輸送)

 私ではありません。しかし、広島の警察署で無くなった8500万円は進展がありませんね。

 

 ということで、この事件は、国鉄チョンボで5000万円がなくなってしまったお話です。当時の国鉄は小荷物輸送を扱っており、現金などの貴重品も運んでいました。通称チッキというやつです。私は一度だけリアルに国鉄小荷物を預ける場面を見たことがあります。母親の実家が飯田線の山奥なのですが、祖母が駅まで見送りに来た際に、どこかに送る荷物を駅の窓口で手続きをしていてたまたま目にしました。今思うと、マニア的には貴重な体験ですね。

 

f:id:Estoppel:20190830231130j:plain

 これが小荷物切符の例です。西ノ宮発豊岡行き。

 

f:id:Estoppel:20190831111817j:plain

f:id:Estoppel:20190831111824j:plain

 これは有田鉄道・金屋口駅の廃札です。厚紙の方が荷物に着ける方ですね。このように小荷物を扱っている私鉄も多数ありました。


 

f:id:Estoppel:20190830231845j:plain

 これは越美北線・勝原駅(福井県)です。古い駅に行くと、このようにハイカウンターとローカウンターに分かれていますが、低い方が小荷物の受け渡し用の窓口です。展示用の面台じゃありませんよ。

 

f:id:Estoppel:20190830232134j:plain

 もう少しわかりやすい例で、肥薩線矢岳駅(熊本県)です。左に出札2か所と、右に小荷物窓口で、典型的な戦前スタイルです。勝原駅とはちがい、出札と改札が分離している点で、複数の駅員がいた様子がしのばれます。

 

 

f:id:Estoppel:20190910180636j:plain

 当時の看板が残っている隼駅(鳥取県若桜鉄道:旧国鉄若桜線)です。無人駅ですが、資料室になっているので、小荷物の看板が残っています。

 

f:id:Estoppel:20190901215554j:plain

  そして、これは弘南鉄道黒石駅にあったものですが、このような秤が近くに置いてありました。
 

 

 さて、本題に入ります。

 ときは昭和56年3月、早朝の函館駅です。前日に北洋相互銀行から現金5000万円を函館駅はあずかり、翌日7:19発江差線経由、松前松前行(721D)に載せて松前駅まで運送する予定でした。

  f:id:Estoppel:20190830200617j:plain

 ※この話と関係ないですが、滝川駅「玉ねぎ菓子(1000円)」が気になる。

 

 運送方法は、函館駅の荷物扱いの駅員が、鉄道公安官立会いのもと、荷扱専務車掌(通称「ニレチ」)に引き渡す手順となっていましたが、その車掌がニセモノだったのです。判決内容では「アノラックの男」と書かれていますが、当時の荷物車は非常に寒く、車掌は同様のスタイルで普段から勤務していたため、違和感は持たれなかったようです。

 本来勤務する車掌はその場にいなかったのか気になると思いますが、ニセ車掌の2分後に乗務についており、そのときは既に犯人の姿はなかったそうなのです。本物の車掌の着任時間は守られていますので、ほんの数分早くニセ車掌が登場し、さっと受け取って、捺印を済ませたわけです。

 結局、犯人は見つからず、この事件は迷宮入りとなりました。ちなみに鉄道公安官が創設された理由としては、このような荷物の盗難や損傷に対応するのが主たる理由であったようです。

 

  

  5000万円の賠償問題

 

 さて、問題は5000万円の賠償です。保険がかかっていたので、保険会社が支払い、保険会社は国鉄職員の過失が原因であるとして損害賠償請求をすることになりました。数社いますが、代表として、日新火災海上保険が原告になっています(選定当事者という。)。

 

 ここから先は少しもやもや感の残る内容だと思いますが、続けます。結論を先にお伝えしますと、認められたのは28万円です。根拠は下記の規定です。

 

 鉄道営業法11条の2・鉄道運輸規程73条:要償額の明示がない場合は、鉄道会社側に重大な過失がない限り上限が定められています。2時間以上遅れても特急券の払い戻ししかしない点と同じですね。

 

 →今回、北洋相互銀行から函館駅へ要償額の申し出はないので、この規定で重過失がない限り賠償額の上限が決まってきます。つまり、貴重品運搬としての割増運賃と、補償額の明示制度が分かれていて、補償額の申告がなかった点です。郵便で例えると、普通郵便から現金書留に変更する分が割増運賃で、その際に補償額の申告を求められると思います。それと同じ理屈です。

f:id:Estoppel:20190831194332j:plain

 この点について、原告は、割増運賃と、この要償額の申し出制度は一般人には認知されておらず、割増運賃も支払ったら高価品の賠償も含まれていると理解するのが通常と主張していますが、認められませんでした。

  

 →では、国鉄に重大な過失がなかったかどうかですが、事件を予見までして、担当者間で氏名を確認しあうような体制をとっていなかったことをもって重大な過失があるといえないとしています。しかし、当時、似たような事件がいくつも起きており、このようにいえるか微妙ですね(私見)。

 

  補足

 この規程は法律ではなく、省令ですが、鉄道営業法11条に要償額をみずから申告する義務が明示されていますので、鉄道運送を依頼する機会の多い会社の法務担当者は覚えておいて損はないと思います。面倒だからといって省略すると、大変な目にあうかもしれません。他の貴重品託送でもおなじような約款がありますね。

  

 

  さらに補足

 この先はどうなったかわかりませんが、保険会社から銀行に逆切れすることもあり得たと思います。つまり、銀行が駅に申し込み行ったときにきちんと要償額を伝えないからこういうことになったのだ(法律にも義務として書いてあるし。)。それ、銀行さんの重大なる過失やろと。だから保険の適用不可やって。

 保険約款次第ですが、逆切れ可能だったかもしれません。

 

 ということで、駅員、鉄道公安官、銀行員の青ざめた顔が目に浮かぶ事件でした。 

 

 

 1審:判例時報1120号21頁・判例タイムズ524号303頁

 2審: 判例時報1156号66頁・判例タイムズ555号367頁