旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 災害時の迂回 別の輸送機関で行く方法 最長片道改め 最長連続きっぷの旅

 前回はJRを使って迂回する方法でしたが、今回はJR以外を使って不通区間を迂回する方法です。同じように現場で駅員さんに見せて相談しやすいような形で書いておきます。

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 まず振替乗車がとられていれば、振替乗車票をもらって乗って行けばいいです。ただで迂回できます。

 しかし、それがなくて自主的にJR以外を使って迂回する場合は、申告することで様々なメリットがあるので、まとめておきます。

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 それでは、私の遭遇した事例から。

 広島駅で芸備線で三次に向かうため列車に乗っていたら、発車直前に途中の志和口で打ち切っているとの放送が入りました。前日からの大雨で線路点検のために見合わせているようなのです。これが普通の旅であれば、さっさと別ルートに切り替えるのですが、今回は最長片道改め、最長連続きっぷの旅です。当然、いけるところまで行くという努力義務に従うのが流儀です。まあ、着いた頃にいい具合に開通ってことも期待してましたが。

 ということで、打切り駅の志和口までとりあえず向かいました。

 

 予告通り運転見合わせでした。しかし、運転再開見込みが15時ぐらいとのこと。あと4時間です。でも、確実なのだろうか。。。

 そこでどっちも割きっぷの高速バスがあることを思い出しました。途中のバス停で高速バスに乗ったらいけるかもと思ったので、駅前にいたタクシーの運転士さんに訊いてみたものの、山一つ越えるので現実的ではないとのこと。すでに備中神代までいく昼の列車には間に合わず、備後落合から先が終電一択なので、いったん広島に戻ることにしました。 

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 ここでルートをまとめます。

 結果としては、広島についたときに運転が再開されたので、正規のルートに戻ったのですが、今回のお題は、別の輸送機関で行く方法です。高速バスなどで向ったことを想定して論を進めます。

 

 論点は下記のとおり。

 

1 不通区間だけを別の輸送機関で行く場合は?

2 無賃で広島に戻ることができるのか?

3 広島に戻るときに途中下車はできるのか?

4 迂回する際の交通費は出してくれるのか?

5 不乗区間の払い戻しはどうなっているのか?

 

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 それでは、まず関連する条文です。総則にあたる282条からです。赤色だけ読んでもらえば大丈夫です。 

 

(列車の運行不能・遅延等の場合の取扱方)

第282条
旅客は、旅行開始後又は使用開始後に、次の各号の1に該当する事由が発生した場合には、事故発生前に購入した乗車券類について、当該各号の1に定めるいずれかの取扱いを選択のうえ請求することができる。ただし、定期乗車券及び普通回数乗車券を使用する旅客は、第284条に規定する無賃送還(定期乗車券による無賃送還を除く。)、第285条に規定する他経路乗車又は第288条に規定する有効期間の延長若しくは旅客運賃の払いもどしの取扱いに限って請求することができる。
(1)列車が運行不能となったとき
イ 第282条の2に規定する旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ロ 第283条に規定する有効期間の延長
ハ 第284条に規定する無賃送還並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ニ 第285条に規定する他経路乗車並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ホ 第287条に規定する不通区間の別途旅行並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ヘ 第288条に規定する定期乗車券若しくは普通回数乗車券の有効期間の延長又は旅客運賃の払いもどし
(2)列車が運行時刻より遅延し、そのため接続駅で接続予定の列車の出発時刻から1時間以上にわたって目的地に出発する列車に接続を欠いたとき(接続を欠くことが確実なときを含む。)又は着駅到着時刻に2時間以上遅延したとき(遅延することが確実なときを含む。)
イ 第282条の2に規定する旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ロ 第283条に規定する有効期間の延長
ハ 第284条に規定する無賃送還並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
(3)車両の故障その他旅客の責任とならない事由によって、当該列車に乗車することができないとき
イ 第282条の2に規定する旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ロ 第283条に規定する有効期間の延長
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旅客は、旅行開始前又は使用開始前に、前項各号に定める事由が発生したため、事故発生前に購入した乗車券類(定期乗車券及び普通回数乗車券を除く。)が不要となった場合は、これを駅に差し出して、すでに支払った旅客運賃及び料金の払いもどしを請求することができる。ただし、乗車券、自由席特急券、特定特急券普通急行券及び自由席特別車両券にあっては、その乗車券類が、有効期間内(前売のものについは、有効期間の開始日前を含む。)のものであるときに限る。

 287条に規定するとあるので、287条を見てみましょう。これが各則にあたります。

(不通区間の別途旅行の取扱方)
第287条
第282条の規定により列車の運行不能のため不通となった区間を、旅客が旅客鉄道会社線によらないで別途に旅行し、乗車券の有効期間内に、前途の駅から乗継をするときは、あらかじめ係員に申し出て不乗証明書の交付を受け、不通区間の旅行を終えた後、乗車券にその証明書を添えて前途の駅に差し出し、その証明書に記載された不乗区間に対する旅客運賃の払いもどしを請求するものとする。

 「あらかじめ係員に申し出て不乗証明書の交付を受け」という部分が重要です。勝手にやってはだめですよ。

 

1 不通区間だけを別の輸送機関で行く場合は?

 たとえば志和口と三次を徒歩で行く場合などです。別に普通に降りていくだけなのですが、証明をもらっておく必要はあるでしょう。後で不乗区間の払い戻しをする必要がありますし、途中下車前途無効の乗車券なら途中下車ではないことを証明する必要がありますし。その規定が上記の287条です。

 このように証明書を発行してもらうか、券面に記入をしてもらう形です。無人駅の場合は車掌さん、ワンマンの場合は運転士さんにもらいます。

 JR社員さん向けにもう少し掘り下げます。

 本条については、基準規程で取扱い方法の詳細が規定されています。

 

【旅客営業取扱基準規程】
(不乗証明書の発行並びに旅客運賃の払いもどしの取扱方)
第364条 規則第287条の場合に、旅客から不乗車の証明書(以下「不乗証明書」という。)の交付の請求を受けたときは、その不乗車区間に相当する乗車券の券面に「不乗証」と記入(当該乗車券が割引のものであるときは、その旨を表示)し、駅名小印を押したうえ、不乗車の証明用として交付しなければならない。
2 前項の場合は、原乗車券の券面に色鉛筆その他の消しにくいもので「レ」印をつけ、これを返さなければならない。
3 第1項の規定による不乗証明書を交付した旅客に対しては、不通区間の旅行を終えた後、旅客運賃の払いもどしの請求を受けた駅で原乗車券を確認したうえ、その証明書と引換えに払いもどしをしなければならない。

 ネットをみると、JRバスで専用の不乗証明書があるみたいですね。

 

 こちらは色鉛筆その他の消しにくいもので「レ」印をつけた例です。


 裏面に記入するので、見落とさないように表面に印をつける意味でしょう。ただ、いまのようにマルス券ばかりではあまり意味のない話ですね。むかしは硬券ばかりなので、余白がある裏面に記入することが多かったようです。

 事故返美々駅下車、201レ(=列車)、ムロ(=室蘭車掌区)、カレチ(=客扱い専務車掌)という意味です。美々で打ち切って後戻りしていることがわかります。事故返の意味は後述します。

 

2 無賃で広島に戻ることができるのか?

 高速バスに乗るであれば、広島まで戻らないといけません。一度乗ってきた区間を復乗するわけです。これが可能かどうかという話ですが可能です。

 これをカバーしているのが、無賃送還の制度です。 

(無賃送還の取扱方)
第284条
第282条第1項の規定により旅客が無賃送還の取扱いの請求をした場合は、次の各号に定めるところにより取り扱う。
(1)無賃送還は、その事実が発生した際使用していた乗車券の券片に表示された発駅(当該乗車券が発駅共通のものであるときは、発駅共通区間内の旅客の希望駅)までの区間(以下「無賃送還区間」という。)を最近の列車(急行列車を除く。)に乗車する場合に限り取り扱う。ただし、次により無賃送還区間を急行列車、特別車両又はコンパートメント個室車により乗車させることがある。

(中略)

(4)無賃送還中は、途中下車の取扱いをしない。
(5)旅客が、前各号による乗車を拒んだときは、無賃送還の取扱いをしない。

 「乗車券の券片に表示された発駅(・・・・・)までの区間」なので、最悪稚内まで戻ることができますね。今回は途中の広島までなので、この区間に含まれています。

 

 更に基準規程には具体的な取り扱い方法があります。

【旅客営業基準規程】

(無賃送還の取扱方)
第358条 規則第284条第1項の規定により無賃送還の取扱いをする場合は、原乗車券及び原急行券の券面に『事故返』と記入し、かつ、駅名小印を押して当該乗車券類によつて乗車させるものとする。この場合、規則第284条の第1項第2項ただし書の規定により他の経路によつて無賃送還をするときは、当該乗車券の券面に指定経路をあわせて記入するものとする。
2 規則第284条第1項の規定により無賃送還の取扱いを請求する旅客が、無賃送還区間を急行列車に乗車することを希望する場合は、規則第284条第1項第1号イに該当するとき以外は、別に急行券を購入させるものとする。

 上記の硬券の記載方法はこれに沿ったものですね。業務連絡書の方は「広島まで事故返」と書いた方が正確だったようです。

 

 なお、連続乗車券の場合は、「駅長において特に事情気の毒と認めたものに限り、乗車券の券面に『何駅まで事故返』と記入し、駅名小印を押してその取扱いをすることができる」(基準規程359条)とありますので、連続の1枚目の途中駅まで戻ることが想定できます。例えば、江別→札幌/札幌→新千歳空港と購入した場合に、江別まで戻るような場合ですね。

 

3 広島に戻るときに途中下車はできるのか?

 「無賃送還中は、途中下車の取扱いをしない」(規則284条2項3号)とあるので、不可といえます。

 どうしても出場したい場合は、一時出場として扱う形で認めます。食事をしたりホテルに泊まったりといった場合ですね。

 

4 迂回する際の交通費は出してくれるのか?

 原則は出ませんが、交渉してみる余地はかなりあります。気の毒な事例の場合は、駅の裁量で出してもらえることがあります。サンライズ瀬戸・出雲が運転打切りになって、駅を追い出される事態となったときに、相談したら自宅までタクシーを用意してもらった経験があります。これは地下鉄の終電が終わって、自宅まで戻れなかったからです。

 終電などが途中で打切りとなって、近隣の大きな駅に戻ったり、ホテルまで行くような場合はタクシー代を出してもらえるでしょう。大雪でとまったときは、代行バスやタクシーで分譲したりなどで近くの大きな駅まで送迎してくれますね。

 

 規則上は鉄道運輸規程によります。17条によると「天災事変其ノ他已ムコトヲ得ザル事由ニ因リ列車ノ運転ヲ中断シタルトキハ鉄道ハ旅客ニ対シ相当ノ便宜ヲ与ヘ之ガ保護ヲ為スベシ」とあり、この範囲がどこまでかというのが、運用上、判断されるわけです。この部分で交渉する余地があるということです。

 

 今回の場合に三次まで高速バス代を出せるかというと難しいでしょう。開通目途は立っているし、広島という便利な駅まで無賃で戻れるわけですし、時間も午前中ですし。私もそんな無理筋な交渉は、恥ずかしいのでしませんでした。

 

5 不乗区間の払い戻しはどうなっているのか?

 今回のケースで、広島まで戻って、三次に高速バスで向った場合の払い戻し金額は、広島→三次なのか、志和口→三次なのかが迷うところでしょう。

 結論は広島→三次です。志和口まで進んでいますけど、無賃送還で戻っていますので、不乗区間は広島から三次と判断します。

 

 参考に国鉄時代の規程を引用します。

日本国有鉄道 首都圏本部旅客営業取扱規程】

 (不乗証明書の取扱方)

第169条 不乗証明書の発行及びその払いもどし方については、本社規程第364条の規定によるほか、次の各号によるものとする。
(1)不乗証明書に対しても、日付印を押すこと。
(2)不乗証明書は、旅客が別途旅行を開始する駅で発行すること。
(3)不乗証明書の発行区間は、不通区間と同一とすること。ただし、他の運輸機関の関係その他特別な事情がある場合、不通区間とその前後の区間を通じて発行することができる。

 

 なので、証明は下記のように記入されるのが良いでしょう。広島駅で追加記入をしてもらおうと思ったら、開通が確実になったので、高速バスで行くのはやめました。開通した以上は、正規のルートで進むのが最長連続きっぷの流儀です。やめた時点で業務連絡書は返さないといけないのですが、何となくもらってきてしまいました。

 

 【記入例】

事故返 芸備線(志和口・三次間)運転見合わせのため広島まで
●●●D ウテシ 印

 

不乗証 広島・三次間
広島駅 印

 

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