旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 乗車券は逆に使えるのか? 途中から使えるのか? 途中で払い戻せるのか?

 まず、こちらの営業規則の条文を読んでいただき、初歩的な疑問から徐々に高度な問題に入っていきます。

 

(乗車券類の使用条件)
第147条
乗車券類は、その券面表示事項に従って1回に限り使用することができる。この場合、乗車人員が記載されていない乗車券類は、1券片をもって1人に限るものとする。ただし、定期乗車券については、その使用回数を制限しない。

 

 1 逆に使えるのか?

  逆向きには使用不可です。

 

 解説に入っていきます。

 たとえばこの乗車券。北海道にあった広尾線の駅です。いちばん初期のタイプです。

 上記の条文に沿えば、愛国から幸福まで1回に限って、愛国から幸福の方向に進む乗車に限って有効ですよということになります。従って、逆方向には使えません。 

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 次に矢印式をいくつか見ていきましょう。 

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 松前線の白符駅です(簡易委託)。

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 大社線の大社駅です。 

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 皆様にお馴染みのマルス券です。

 

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 着駅が多い場合は、このように複数の矢印が用いられます。この場合もどれか一つの矢印を選択してその方向に乗車することになります。

 

 地図式はどうなるのでしょうか。

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 これも矢印式と同じように考えます。大都市近郊区間の場合は、同じ駅を通らなければ、どのルートを通っても構わないので、自分の望んだ方向が使う区間になりますね。なので、改札を入る前に経由を必ずしも決める必要はないのです。

 券売機の金額式も同じ理屈です。

 

 2 逆にも使える乗車券

 

 では、矢印が⇔となっている場合はどうなのか。相互式といわれる様式です。

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 矢印の通りなので、どちらからも使えます。往復したい旅客に2枚渡せばいいので便利ですね。ただし、2枚渡しても片道が2枚であって、往復乗車券ではありませんので、翌日は使えませんね。

 

 回数券を見ると、もっとわかりやすいと思います。

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 回数券はどちらの方向からも使うことが前提とされているので、矢印が両方に向いているわけです。言うまでもなく定期券も両方向から使えますね。

 

 3 途中から使えるのか?

 さて、発駅から着駅まで、決められた方向で乗る必要は分かりました。では途中から乗ってもよいのか。「その券面表示事項に従って」だけだと、きちんと発駅から使わないといけないようにも思えてしまいますが、これは可能です。

 営業規則にも148条1号に明記されています。

 案外ありますよね。東京からの出張の帰りで、東京から新幹線に乗る予定だったものの、新横浜から乗った場合などですね。

 もともと運送契約自体が、■駅から▲駅まで運びますという契約なので、途中の権利を放棄するのは、自由なわけです。途中で乗ったからといって、鉄道会社に何か迷惑がかかるわけではないですからね。

 

 4 途中で放棄できるのか?

 同じように途中から放棄するのも自由です。もちろん途中下車前途無効の乗車券の場合はその駅で無効です。

 残りが101キロ以上ある乗車券であれば、払い戻すことが可能です(後記のとおり)。

 東京都区内⇒大阪市内の乗車券で、新横浜で乗って、京都で降りてもいいのです。この場合は変更した方が得なのですが、損を覚悟でこのような使い方は可能です。

  覚えておいてほしいのは、近郊区間内の乗車券であっても、101キロ以上残っていたら払い戻し可能なことです。例えば銚子から松本まで購入すると、6050円という高額の乗車券にもかかわらず下車前途無効で、当日限り有効となります。この乗車券をもって、新宿で下車する必要が生じた場合に、うっかり自動改札機に入れようものなら回収されてしまうと思います(たぶん弾く設定にはなってないと思う。)。

 券面上、下車前途無効とあるので、払い戻しすらあきらめてしまう方もいるかもしれませんが、精算所に申し出てください。 

 

 5 途中を端折っていいのか?

  応用編です。東京都区内→大阪市内の乗車券で、小田原で降りて熱海から乗る場合です。箱根に遊びに行ったらありそうなパターンですね。

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 これも可能です。ここまでの話をあわせるとわかると思います。

 

 6 未乗区間を後で乗れるのか?

 では、上の場合で、乗らなかった小田原から熱海の間を、後で乗れるのか?ですが、乗れません

 冒頭の規定で「その券面表示事項に従って1回に限り使用することができる」とあるので、この文言からは論理的に否定する効果は出てきません。

 そこで、営業規則では、否定するために次の通り特則を置いています。

 「乗車券類の券面に表示された発着区間内の途中駅から乗車する場合」(148条)の規定を受けて、「第148条の規定により乗車券類の券面に表示された発着区間内の途中駅から旅行を開始し、又は同区間内の途中駅で下車した後に前途の駅から乗車した場合の不乗区間については、乗車の請求をすることはできない」(150条)。

 

 7 未乗区間を払い戻せるのか?

 上の方で少し書きましたが、 101キロ以上残っていたら、払い戻しが可能なのでで、あきらめずに窓口に申告してください(営業規則274条)。ただし、未乗車区間であっても、既に通り過ぎている区間は払い戻せません(275条2号)。

 極端な話、東京都区内⇒大阪市内の乗車券で、名古屋から乗車して京都で降りても、未乗区間の払い戻しはできません。東京⇒名古屋は乗ってなくても、すでに通り過ぎていますし、京都⇒大阪は101キロ以上ありません

 

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 本ブログはここで終わりません。頭に入れておくと便利な上級編です。

 これは、飯田線の城西から九頭竜湖に至る乗車券で、3日間有効です。私の実家は飯田線の沿線なので、法事に出て実家で1泊し、その後、鯖江に1泊してから翌日に九頭竜湖に行こうと思っていたのですが、所用があって1日延びてしまいました。

 

 鯖江で1泊したら、翌日にこの乗車券は使えなくなるではありませんか。 途中下車マニアの本領発揮と思いきや、有効期間が足らんがなってオチになりそうです。

 そこで考えました。鯖江の駅で申告して継続乗車制度(下記参照)を使って、九頭竜湖まで行こうかと。しかし、あの制度は駅側が列車を指定してくるので、初電とか指定されても、ホテルで朝飯くえねーって話になりかねません。それにあの制度を取り扱える駅員はほぼ絶滅しているので、処理にとんでもなく時間がかかるものと予測されます。しかも、到着する時間が遅いので、鯖江駅が閉まっていたら万事休すです。 

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 出た結論は、豊橋での払い戻しです。

 

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 これを鯖江まで行ってしまうと、残りが101キロを切ってしまうので、払い戻しができなくなってしまいます。つまり、ポイントは、101キロ以上残っているうちに決断しないといけないということです。

 

 ちなみに、途中下車印の意義の一つがこれです。上記の乗車券で、鯖江の途中下車印が押されていたら、払い戻しは出来ませんが、豊橋なら可能です。このように不正を防ぐ目的もあるので、途中下車印はきちんと押さないといけないのです。

  

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 次に、途中下車との関係で考えてみましょう。今回、この乗車券で私は飯田線の某駅で途中下車して実家に立ち寄っています。これを城西→豊橋の乗車券を使っていたら、101キロ未満となり、途中下車前途無効となってしまいますので、下りる駅で切って買うことになっていたはずです。

 つまり、何が言いたいかというと、払戻手数料220円を負担することで、101キロ未満の区間であっても途中下車を実質的に実行することが可能なのです。2駅も下車したら十分元はとれるでしょう。ただ、このやり方は、ずるい印象もありますね。

 

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 更に、有効期間との関係で考えてみましょう。上記の乗車券を豊橋から少し先の岡崎まで行く予定として、飯田線沿線の実家で2泊したい場合です。城西から岡崎は109.9キロなので、有効期間は2日となり、実家にいる間に期限が切れてしまいます。

 これを鯖江九頭竜湖まで購入すると、201キロ以上となるので3日間有効となりますね。そのうえで、岡崎で払い戻したとすると、払戻手数料220円を負担することで1日の有効期限が増やせたことになります。220円で1日を買うわけです。

 

 ただし、この場合は、城西→岡崎・岡崎→相見の連続乗車券とする方が140円の負担で1日延ばすことが可能です(詳しくは下記参照)なので、こちらの方が安上がりでしょう。

 +2日以上の場合に威力を発揮しますね。

 

 なお、途中下車や有効期間を活用するための途中払い戻しは、若干、倫理的に如何なものかと思うところもあると思いますが、消極的ながら、営業規則自体が想定していると考えていいと思います。

 

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