旅と鉄道の美学

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【コラム】 チケット不正転売禁止法で人気列車のきっぷ転売ヤーを取り締まるには

 転売ヤ―を苦々しく思っている鉄道会社営業部向けの記事です。プロ向けなので、条文引用も多めですし、専門用語も多いと思いますが、ご容赦ください。

 

  営業規則上での制限

 

 営業規則上は、一部の私鉄に限定的に規定があるだけです。例えば、近鉄は、次のような規定をおいています。

近畿日本鉄道 旅客営業規則】

第110条 特別急行券は、次の各号の1に該当する場合は無効として回収する。
(1)乗車列車を指定した特別急行券を指定以外の特別急行列車に使用したとき
(2)券面に表示された事項を塗り消しその他改変して使用したとき
(3)偽造の特別急行券を使用したとき
(4)大人が小児用特別急行券を使用したとき
(5)券面の表示事項が不明となった特別急行券を使用したとき
(6)その他特別急行券を不正乗車の手段に使用したとき
2 前項のほか、特別急行券は、次の各号の1に該当する場合は無効として回収
することがある。
(1)特別急行券を、所定の料金を超えて、第三者に転売し、または転売しよう
としたとき
(2) 前号の転売行為を利用して特別急行券を購入したとき

 ただ、実際に取り締まるとなると難しい面があると思います。ネットや金券屋で見つけ次第、警告をするなどの方法でしょう。理論的には、転売しようとしたときに無効になるわけなので、その場で回収の請求ができるともいえそうですが、他人から買い入れたものだと、近鉄と金券屋には明確な契約関係がないので、難しそうです(金券屋が直接、近鉄から購入していれば成り立ちます。)。多少、無理筋ですが、きっぷの所有権は鉄道会社にあると考えたら返還請求権としていえそうですね。

 まあ、結局、金券屋やオークションサイトなどのコンプライアンス意識に期待しての規定なのでしょう

 下記のJR九州のお気持ちが強くなって効力規定までおいている事例といえますね。

www.estoppel.jp

 

  チケット不正転売禁止法での制限


 さて、表題の件をメインに防止するための法律が、チケット不正転売禁止法(正称:下記)です。これなら罰則規定もあるので、効果的です。しかし、きっぷへの適用はかなりハードルが高くなります。

 

【特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律】

(定義)
第二条 この法律において「興行」とは、映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(日本国内において行われるものに限る。)をいう。
2 この法律において「興行入場券」とは、それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票(これと同等の機能を有する番号、記号その他の符号を含む。)をいう。
3 この法律において「特定興行入場券」とは、興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 興行主等(興行主(興行の主催者をいう。以下この条及び第五条第二項において同じ。)又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者をいう。以下同じ。)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。
二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。次号及び第五条第一項において同じ。)又は座席が指定されたものであること。
三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。
イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。)その他の連絡先(ロにおいて単に「連絡先」という。)
ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く。) 購入者の氏名及び連絡先
4 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。

 まず、難しい要件が「興行」性です。当該法令(2条1項)では、「映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツ」を意味することから、何かタイトルをつけて、さらに実際にイベント要素を盛り込むことが必要でしょう。

 たんに定期列車をある時期だけツアー列車のようにうたうだけでは難しいですね。銚子電鉄の「電車プロレス」などのようにこの要件に適合するような内容にする必要があります。

 

 次に「興行入場券」性です(同2項)。「それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票」とあるので、当該車両への入場券を別に作製すればよいでしょう。

 

 さらに、「特定興行入場券」性です(同3項)。これは、有償譲渡を禁止する旨の表示をして、個人情報を特定しての申し込みにすることでクリアできるでしょう。


 「特定興行車両入場券」とでもして、普通乗車券にこのきっぷを必要とすることにします。こうすることで、普通乗車券で旅規の適用を認められるので、運送契約としての側面は維持できます。また、この「特定興行車両入場券についての約款」を別建てで作成すれば、売買契約としての側面も担保できます。両方を併せて、請負契約と売買契約の複合契約という法律関係が成り立ちます。運送契約は請負契約にあたりますが、売買契約性を強めた運用にしないと本法の適用で疑義が生じるからです。

 競争率が高い時期だけ芸術・芸能・スポーツなどに関わるようなイベント列車に変更してしまい、「特定興行車両入場券」(通称:イベント券)としてマルスに収納し、販売することで可能となるでしょう。映画とかコンサートのチケットのようにマルスにいれている方法と同じですね。

 結局、こちらも、あまり防ぎようがないのかもしれませんが、オークションサイトなどでは自主規制を行っているところもあるようなので、運営側の削除は期待できるでしょう。

 

 

 記念きっぷについては、限定販売にはせずに通販とすることで効率的に発売できる仕組みに変わってきています。この特急券の発売方法などが模範的だと思います。オンデマンド発売とすることで、欲しい人みんなにいきわたり、在庫処分の問題も起きず、転売ヤーの暗躍も防止できます。

 小賢しく限定販売にするからダメなんですよ!

www.estoppel.jp

 

  ダフ屋対策から考える


 JR旅規上、ダフ屋行為を取り締まる一般的な規定はなく、条例によるところとなります。東京都の迷惑防止条例(正称は下記)を例として持ち出すと、次の通り2条が該当します。

【東京都・公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例】

第二条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。

2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。

 さらに、8条にて「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と罰則規定が定められています。

 上記の規定はあくまで公共の場であることから、典型的なダフ屋行為を取り締まるものです。従ってネット上の転売ヤ―は対象外です。

 

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 結局、記念きっぷについてはネット予約などを行って現地販売とするのが一番いいのでしょう。ネット予約にして整理番号とかQRコードなどを付与し、それを確認して販売するような形ですね。こうすることで現地まで来てもらえることも期待できますし、需要に応じた印刷も可能です。さらに在庫が残っていたら、その場でスマホからログインしてもらってから窓口にくるように誘導すればいいのです。

 また、申し込み時に抽選で賞品がもらえるようなアンケートを実施して、旅行者の傾向分析を行えばなデータマーケティングが可能です。

 

 人気列車については、特定興行車両入場券なるものを別途用意して、チケット不正転売禁止法で検挙する旨の警告をしたうえで、営業規則上も無効にする旨の規定をおいたら相当なアナウンスメント効果があると思われます。

 ただ、このようにしてしまうと、定期列車の最終運行などでは、事情を知らない一般の方に迷惑をかけるようなことも予測されます。たとえば、特急やくもの国鉄車両の最終列車です。この場合、最終に臨時列車を走らせたらどうでしょうか。定期列車のすぐ後追いで最終の臨時を入れるのです。もちろん簡単にスジが引けないことは承知で述べています。そこはスジ屋さんはじめ関係者に頑張っていただくということで(←中のことを知らない門外漢が勝手なことを言っておりますが)。