旅と鉄道の美学

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【コラム】 切手集めとキップ集めの精神性について

 興味がない人からすると、切手集めとキップ集めは同類とされるのですが、何かが違うんですよね。小学生の時の比率は30人クラスで切手収集家が4名、キップ収集家が2名程度だったとおもいます。最近はもっと少ないようで、1学年でこの程度でしょうか。

 

 クラスの中では、切手収集家もキップ収集家も静かなオタクの趣味ですから、何となく通じ合うものがありました。私も切手集めをしている人に影響されて、鉄道デザインの切手は多少集めましたが、いまは飽きてしまい、実際に使っています。

 

 さて、冒頭の疑問です。 

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 これは手元にある切手のいくつかですが、デザイン的には見応えがありますよね。海外でも切手を集めている人は多く、お土産品でも使用済み切手を売っていたりします。コレクターの世界的な交流も頻繁です。

 

 他方、キップの方はどうでしょか。 

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 確かに、こんな感じでデザイン重視の記念キップをみたら、切手と同様に購買意欲はわくでしょう。これなら一般の旅行者でも買って帰る人は多いですよね。

 

 でも、むかしの普通乗車券といったらこれですよ。 

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 必要な事しか書かれておらず、無機質さが際立っています。こんな状態では、女の子は当然のことながら、男の子でも興味を持つ人はいませんよね。コンビニのレシート並みの扱いでしょう。

 海外でもキップ収集が趣味というのは、なかなか珍しいですね。おそらく日本と台湾ぐらいだと思います。あとはひと昔まえのイギリスです。

 

 海外の鉄道に乗ると、趣味で乗車券を購入するということがなかなか理解されなくて、苦労することがあります。「おまえは外国人用のフリーキップをもっているではないか」と。好意でレクチャーしてくるのですが、そんなことは分かりきって言っている話。特に英語の通じない車掌から車内補充券を購入するときは苦労します。

 

 スリランカ硬券の入場券や乗車券を何枚も購入していたら、途中から駅員さんの目つきが変わったのが分かりました。最初は怪訝な様子で、変な日本人がいるぐらいの印象だったようですが、こいつマニアだな!と気づいてからは、半分は呆れ顔でニヤっとした様子でした。

 

 しかし、この趣味を理解されると、面白いですよ。海外の駅員さんは概してゆるいので、いらないキップをもらえますからね。自分で使ったキップではなくて、着札をくれるんですよ。

 

 

 

 

 ということで、少年の私はなぜかそのような無機質な乗車券に魅かれていきました。

 それはおそらく、「無機質な機能美」をそこに見出したからではなかろうかと思います。メカマニアが機械の内部をみて感動し、電子工作マニアが回路図面をみて涙を流す。その感覚に通じるものがあります。

 

  それはキップというものの、様式のバラエティさに現われています。

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 このように特急券急行券を取り上げても、一定の標準フォーマットはありながらも、時代や地域性で個性が表れる。そこを分析していくのがキップ収集家の醍醐味です。たまに○○印刷場の硬券であるとか語っている人がいますが、この手のマニアにあたります。

 さらに、ディープな方向に進むと、どのような背景や規則を根拠にこのような様式になったのだろうか?と、どんどん裏事情を探り出します。そうなると、営業規則の分析や鉄道史を紐解いたりと、法律家や歴史家の真似事をせざるを得なくなります。このあたりが、キップ収集マニアのアッパーラインで、この先は海外に目を向けるようにもなってきます。ちなみに私は、↑イマココ!って感じです。

  

 なので、一見、切手収集家とキップ収集家では、同じような感覚の趣味と思いきや、精神性のベクトルが少し違うのです。

 わかっていただけましたか。悪質な撮り鉄みたいに迷惑をかけるような行為はしませんので、生ぬるく見守ってくださいね(もちろんマナーを守る撮り鉄さんの方が多いですよ。)。たまにちょっと面倒な乗車券を駅員さんにお願いすることはありますが、丁重にお願いして、感謝の言葉は伝えます。旅客としては、乗車する以上、正当な理由はあるのですが、気持ちよくやり取りしたいですからね。