旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 ペットと旅する「手回り品切符」を考えてみる。

 この記事はマニアか現役の駅員さんしか面白くないと思います。ペットと一緒にちょっと長旅をしようと思ったら読んでみてください。

 

 さて、自転車を担いで全国を巡っていた友人や、駅員時代に旅客からうけた質問で答えをきちんと出せてなかったのが「手回り品切符」の制度です。駅員時代は、なんとなく乗車券と一緒の区間を記入して売っていましたが、駅の主任にきいても明確な答えが返ってこないまま退職しました。そこでペット好きの皆様のため、改めて、この制度を考えてみます。営業規則鉄でも手回り品切符をここまで研究している人はいないでしょう。

 とはいうものの、手回り品切符に関する文献はほとんどなく、制度の変遷を追いつつ、かなり類推解釈などをして結論を出しているので、私の見解に対しては異論等があると思います。コメントやメールなどで批判をいただけるとありがたいです。

 

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 典型的な手回り品切符の形です。荷札になっていて、針金でケージに括り付けます。 

 

 現在の制度(JR編)

 現在の規定は下記のようになっており、小動物だけが有料で、あとは無料で持ち込みができる物が明記されているだけのシンプルな規則になっています

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第309条 (有料手回り品及び普通手回り品料金)
 旅客は、小犬・猫・はと又はこれらに類する小動物(猛獣及びへびの類を除く。)であって、次の各号に該当するものは、前条第1項に規定する制限内である場合に限り、持込区間・持込日その他持込みに関する必要事項を申し出たうえで、当社の承諾を受け、普通手回り品料金を支払って車内に持ち込むことができる。
(1)長さ70センチメートル以内、最小の立方形の長さ、幅及び高さの和が、90センチメートル程度の容器に収納したもので、かつ、他の旅客に危害を及ぼし、又は迷惑をかけるおそれがないと認められるもの
(2)容器に収納した重量が10キログラム以内のもの
2 普通手回り品料金は、旅客の1回の乗車ごとに、1個について290円とする。

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  簡単に言うと、小動物は容器に入れて「1回の乗車ごと」に290円を支払って承認を得た場合は車内に持ち込むことができるということです。

 

 表現の仕方が「有料手回り品」「普通手回り品料金」と分かれているのは旧制度の名残です。下記のような区分けになっていて、色付き部分が近年の改正で無料手回り品に移行しています。自転車が無料になったことが大きいですね。

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 現在の制度(私鉄編)

 関東圏の私鉄は有料の手回り品制度はなくなっています。持ち込めなくなったのではなく、持ち込める内容は同じで、無料になったということです。ペットも無料で持ち込めます。

 2社だけリンクを貼っておきます。今後は、他の私鉄にも広がっていくでしょう。

 京成 リンク⇒ 京成線ご利用案内

 東武 リンク⇒ その他のご利用について | きっぷのご案内 | 東武鉄道

  

 

 小動物とは?

 少し曖昧な書き方になっています。爬虫類や鳥類、魚類も含めてよいと思いますが、やたら鳴いたり、悪臭などを発する場合は断られると思います。人に危害を加える恐れがあったり、病気の動物なども断られると思います。猿は『JR旅客制度のQ&A』で認める事例であがっていますね。

 基準に該当しても、承認するのは鉄道会社なので、鳴き声がひどい場合などは、マナーの問題ではなく、規則違反で車掌に降ろされるでしょう。優等列車に乗る時は事前に駅で相談した方がいいと思います。特に夜行のサンライズグリーン車グランクラスなどは事前相談した方がいいです。

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 これはJR九州の手回り品切符ですが、添付される注意書きに「他のお客様にご迷惑をおかけするおそれがある場合や列車が大変混雑している場合などは、持ち込みをお断りすることがあります。」あります。

 ちなみに、ときどき隠して動物を持ち込もうとする人がいて、駅員時代は呼び止めて手回り品切符を発行したことが年1回程度ありました。持ち方とか変なのですぐわかります。

 

 

 弓はどうなのか?

 弓道弐段の私としては気になります。和弓は七尺三寸(2m21cm)ありますので、2m基準を超えてしまいます(当時は1mが基準)。2mを超えると、規則上、有料とか無料とかではなく、そもそも持ち込み不可になってしまいます。私は中学高校と弓道部だったのですが、一度も指摘されたことはないので、いつも気になっていました。

 しかし、調べてみると、規程の400条に「運動用具又は娯楽用具であつて、長さが制限を超えるときでも、2m程度までのものであるとき」は「手回り品を持ち込む列車等の状況により、運輸上支障を生ずるおそれがないとないと認めるときに限り」認めていました。実務上、容認していると言えますね。

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 88年のJRが始まってすぐの時刻表を見ると「ぐらい」などと規則とは違う文言が入っており、国鉄時代も同じ表現です。

 

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 これは最近の時刻表です。「ぐらい」はとれている一方で、スポーツ用品は「車内で立てて携帯できるもの」となっています。ただ、営業規則上は現れていないので、通達等で許容し運用しているのだと思います。

  このような説明のない鉄道会社も多く、規則上は弓を持ち込めないということになっちゃいますね。断られることはないと思いますが。 

 

 

 手回り品切符で途中下車できるのか?

 できません。規311条1項で途中下車をしたときは効力を失うとされています。

 

 以前は「100キロメートル程度までのもの又は1個の列車等に限るもの」という限定規定があり、近距離の持ち込みと、1個の長距離列車を想定した2パターンでした。しかし、100キロ程度という制限は現実にそぐわなくなってきたということですね。確かに今はスピードが全然違いますから100キロなんて非現実的ですね。そこで距離ではなく乗車を基準に統一したということでしょう。しかし、下車前途無効は維持されています。

 

 さて、以前はこの「100キロ程度」という「程度」は、駅員泣かせでした。国鉄にしては、珍しくいいかげんな規定です。100キロと言い切ってくれたら、接続駅などで切るのですが、あいまいなので、130キロぐらいを普通列車で乗り継いで移動する場合が困るのです。まあ実務上は、東京⇒名古屋を普通列車で乗り換えて移動しても1枚の手回り品切符で処理していたようですが。  

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 これは88年の時刻表の表記です。ここでも「程度」になってますよね。

 

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 これは71年に発行された『車内補充券の発行方』という本の一部ですが、120.4キロ区間の手回り品切符で下車前途無効としている事例です。これが1列車を想定しているのか、乗り継ぎながら移動することを想定しているのか微妙です。解説もその点に触れておらず、セコイなと感じます。まあ根室本線のこの区間は直通列車ばかりなので1列車想定なんでしょう。

 

 現在、この100キロ程度の距離制限はありませんので、極端にいうと、年末年始の大回り乗車にペットを連れた場合は、290円だけで済むということです(2日もペットを連れまわしたら虐待でしょうけど。)。 

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  これが実例です。「下車前途無効」と表記されています。着駅が東京となっているのは乗車券とはちがって、都区内制度が無いからです。新宿で降りるのであれば、着駅が新宿となります。

  

 

 乗り越しをした場合はどうなのか?

 これは基程の405条3項に記載があり、区間変更に準じた取り扱いをするようになっているので、変更が可能です。車掌や改札係が券面上を訂正する形です。

 これを反対解釈すると、区間変更できない場合は、手回り品切符の買直しと理解できます。法的にも、区間変更までは契約の条件変更、それを超えたら新たな運送契約と見ることが可能なので、新たな運送契約に準ずる手回り品切符は別購入という理解になります。

 

 

 往復乗車券や連続乗車券との併用の場合はどうなのか?

 これも途中下車したら無効です。

 更に、往復乗車券のゆき券や、連続乗車券1枚目の着駅での下車はどうか。これは、「途中下車」ではなく、「1回の乗車」が終わると考えるかどうかです。なので、改札を出ないのであれば、手回り品切符は通しで使えると考えてよいでしょう。往復乗車券で改札を出ずに戻ることは少ないでしょうけど、連続乗車券なら一般的ですね。下記の記事で鶴見⇒東京⇒神戸の場合などは、蒲田で降りる必要など全くないですからね。これを2枚の手回り品切符で発行されたら誰でもキレるでしょう。

 ここで物知りな読者は疑問に思うでしょう。3経路の連続乗車券を容認している東葉高速鉄道はどうなのかと。東葉高速鉄道自体は、現在、有料手回り品制度は廃止していますが、以前なら連続乗車券3経路中で下車しなければ1枚の手回り品切符で持ち込み可能と考えます。 

 

 

 企画乗車券との併用の場合はどうなのか?

 同様に規311条1項を適用し、途中下車前途無効です。さらに乗り越した場合は、新たに乗車券(別途片道)を購入することになるので、手回り品切符も買直しです。ムーンライトながらで小田原まで普通乗車券を使用して、小田原から青春18きっぷを使うときは、手回り品切符も小田原で切って2枚になります。

  

 

 他社線に乗り継ぐ場合はどうなのか?

 前記の通り、昔は100キロ程度という基準があり、これが連絡運輸の場合にも適用されるので、長距離乗車券の場合は会社間の接続駅でいったん打ち切る措置をして、接続駅の改札に申し出るよう伝えていました。その場合、持ち込み区間を空白にすることも慣例上あったようです。

 現在、距離制限はありませんので、連絡運輸の範囲内で途中下車しなければ1枚で可能です(接続駅で乗り継ぐために改札を出るのは途中下車ではありません。)。

 

 連絡運輸の詳しい話は下記をご覧ください。  

 連絡運輸の近距離の事例を挙げておきます。

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  これは、東海交通事業城北線発で、枇杷島から先がJRですね。本社で発行してもらった物のなので、駅名がありません。

 

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 これは、東急の西小山から目黒、渋谷(もしくは新宿)を通って京王のつつじヶ丘に至る切符で、連絡運輸の範囲に入っていて、距離が100キロ程度に収まっているので1枚での発行になります。(※100キロ基準は当時の規定です。)

 

 なお、地方の鉄道には手回り品切符は会社ごとだと誤解されている駅員さんがあまりに多いので、注意を要します。連絡乗車券を会社の都合上、売らないのはさておき、連絡運輸範囲に入っていたら、1枚の手回り品切符で処理しないと旅客に損をさせることとなり不正な取り扱いとなります。

 そもそも連絡運輸を結んでない間柄では、全く関係ないので別々ですが。 

 

 某鉄道会社の駅で尋ねたときは、ある駅では備え付けの駅員用のラミネートにはしっかりと「手回り品切符は2社まで」と書かれていたものの(この鉄道会社からの連絡運輸範囲は2社までしかない。)、別の駅では自社線だけという回答でした。もうめちゃくちゃですわ。

 

 会社によって金額が違う場合はどうなのか?

 連絡運輸区間の場合は、1枚でいいとして、各会社で金額に差がある場合はどうなるのか疑問が湧くと思います。たとえば、松浦鉄道は260円ですが、JR九州は280円(当時)です。

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 上記の乗車券は佐世保中央佐世保松浦鉄道佐世保⇒日宇がJR九州です。これにあわせて手回り品切符を利用した場合を想定します。もう、これは便宜上、発駅基準で考えるしかありません。金額が違うからといって佐世保で打ち切って更に280円をJRがもらうなんてバカな話はあり得ません。しかも数分乗るだけだし。制度上も、承認権限があるのは発駅の駅長なので、発駅の属する会社の基準に準ずると考えることができます。ちなみにこの事例で、帰りはJR基準なので280円になります。

 

 

  他社連絡の長距離列車はどうなのか?

 たとえば代表的なところで、特急リバティあいづ(東武鉄道野岩鉄道会津鉄道)や特急スーパーはくとスーパーいなばJR西日本智頭急行)などですね。これも同様に途中下車しなければ大丈夫です。鳥取から東京まで移動した場合に、途中下車をしなければ1枚で可能です。 

 

 

 連絡運輸範囲を超えていた場合はどうなのか?

 直通列車的なものが充実している路線だと、「ハア?」ってなると思います。例えば猪苗代⇒会津若松会津田島⇒浅草と乗った場合です。全く改札外に出ることなく2回程度の乗り換えで可能ですが、乗車券は1枚で買えません。通常は猪苗代⇒新藤原で買って、東武の車内で車掌に乗り越しを申告する形になると思います。猪苗代駅でも、持ち込み区間は浅草駅までとは書いてもらえないと思います。

 こういうときは制度趣旨に戻ります。手回り品切符というのは、鉄道会社側の承認が前提となっていて、連絡運輸の場合は、協定を結んでいる他社線エリアの承認権が代理として発駅に与えられていると考えます。となると、猪苗代駅が承認を出せる権限は野岩鉄道新藤原駅までなので、そこから先は東武鉄道が承認を出すことになります。上記の事例では、車掌は新藤原⇒浅草の乗車券とともに同区間の手回り品切符を発行することになります(そこまでの手回り品切符は回収します。)。

 また、乗車券に準じて取り扱うという説明でも可能ですから、東武の車掌はこのように説明するでしょう。

 

 

 回数券と併用の場合はどうなのか?

 回数券ともに途中下車したら無効です。また回数券の距離がどれだけ長くても手回り品切符は1枚で可能です。ただし、普通回数券は200キロまでしか売れませんので、手回り品切符も200キロが限界になってきます(新幹線は別)。

   

 

 ICカードと併用の場合はどうなのか?

 ICカードの場合は、発駅時点で着駅まで認識した契約ではなく、降りた駅で精算することを前提とした条件付き契約と理解できます。しかし、手回り品切符を購入するときは着駅を申告するので、この時点でICカードで移動する際の着駅も推定されます。

 ということは、乗車券と同様に、1枚の乗車券として売れる範囲で手回り品切符を発売することになります。申告した区間が連絡運輸範囲であれば他社分も含めて発売しますので、接続駅で打ち切るようなことはしません。

 

 

 定期券と併用の場合はどうなのか?

 昔は、定期券の場合、無料で持ち込めるサイズが普通乗車券より小さかったため、普通乗車券なら無料だが、定期だと有料という区分がありました(旧規308条1項)。いまはこの規定がないので、これまで述べたとおり途中下車しなければ距離制限なしです。

  

 

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 ここで終わらないのが本ブログのウリです。わたくしは、大学生時代に勉強用の机がほしいと思っていたとき、ちょうど調布駅前の家具屋で見つけたのですが、亀有まで送ると送料9000円というのです。幸いに箱に入った状態のものがあったので、担いで運べば手回り品切符代だけですむだろうという判断し、決行しました。都営新宿線直通に乗れば1回の乗り換えでいけますが、とんでもなくきつかったです。肩にロープがめり込み肩甲骨ごともげそうで、翌日は肩が痛くて1日寝込んでしまいました。

 そのときの京王調布駅営団新御茶ノ水駅の駅員とも手回り品切符の対象ではないというのですが、1m基準を超えていたので、手回り品切符が必要な事案だったと思います(規309条5号および荷物営業規則5条1項1号)。面倒そうな顔して、「大丈夫ですよ!」とかチャラく言われました。私が駅員なら、調べてから手回り品切符を発行したと思います。