京王観光の不正で話題になっている指ノミ券に触れておきましょう。
マルス端末(みどりの窓口にある指定券やイベント券などが発券できる機械の総称)で発行されるものの、金額表示などがなく、指定席だけを予約する役割の券です。
ほとんどの用途は、指定席料金も含まれた企画乗車券を実際に利用する際、追加料金はもらわず、指定券を発行する場合に用います。最近だと外国人用のジャパンレイルパスで旅をする際に発行される特急券などが代表的でしょう。
わがブログでも二つほど登場していたので紹介です。
●一つ目は、企画乗車券の事例です。
下記の物は、クーポン形式で新幹線の特急券がセットになっていますので、別に特急券を買わずとも指定さえ受ければ乗車可能です。こういった場合に指ノミ券がでるのですが、この乗車券は券面上に指定情報を記入する欄があるので、そこに転記しています。転記できない場合は「指ノミ券」がホッチキスなどで止められて出てきます。
●企画乗車券ではないものの、機械的に発券できない場合もありえます。下記は、小田急の端末への接続でありながら、JR区間の特急券を発売した事例です。料金自体は小田急区間の船車券で負担しているので、JR区間分の発券を「指ノミ券」として出したものでしょう。JRのマルスで発券できないので、手売りで出しています。珍しい事例です。
マルスで発券した事例もあったのですが、どこにしまったか不明なので、出てきたらアップします。
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ここで終わらないのが、本ブログのウリです。
ネットなどでは、JRの旅客営業規則を持ち出して、正規の金額に2倍分を加えた3倍の金額を請求すべきという意見がありますが、これは難しいでしょう。確かに一般の旅客のキセル(広義の不正乗車という現代的な意味です。)であれば、このような措置を行い、より悪質なら詐欺罪で告訴という手続きも踏みますが(鉄道営業法の罰金もありうる。)、乗車している一般旅客に不正乗車の意思はありません。刑事なら故意がかけますし、民事なら違法性もしくは故意・過失がありません。可能だとすれば、不正乗車の認識があって同行している添乗員ですね。この人ならいけると思いますが、実際にうまく立証できるかというと。。。
それに添乗員分だけ3倍請求しても、大した額になりませんし。
総じてみると、問題点はJRと京王観光の乗車券類の委託販売契約に反する行為ですので、営業規則は必要としないでしょう。両当事者の業務委託契約(民法の準委任契約に該当する。)に違反したという事実に基づいて、債務不履行に基づく損害賠償請求ということになります(不法行為という理論立てもあるが、詳細は割愛する。)。
そうなると、具体的に契約書に損害賠償の予定額などがあれば、それに従いますが、そうでなければ、実損額と遅延損害金にとどまるでしょう。もう少し広げて、不正の調査費用をはじめそのほかの諸費用なども加えられそうですね。これが一番現実的です。
なお、普通にビジネス上の提携契約としてみると、不可抗力の場合の賠償予定額はあっても、不正の場合の賠償予定額はないと思います。
さて、販売代金の支払いを不正に免れた(あるいは引き渡すべき金員を横領した。もしくは任務に背いた。)という点で、京王観光自体の詐欺罪、あるいは横領罪、背任罪はどうか。刑法犯は基本的に個人の犯罪を前提にするので、事実上、主犯(共同正犯を含む)や被欺罔者(駅員さんもしくはJRの取引担当者)の特定が難しいと思います。内部文書を差し押さえて、具体的な指示者がでてくれば別でしょうけど。被疑者不詳で告訴状は受理されても、公判維持が難しいという点で、立件できる可能性は低いように感じます。
最後に旅行業法違反の点です。観光庁長官による業務改善命令が出される可能性はあろうかと思いますが(法36条)、直接の被害者が旅行者ではなく、JRなので会社間の解決にまかせるかもしれませんね。てるみくらぶ事件とは、性質がちょっと違います。
また、今回は、ツアー(企画旅行や手配旅行)ではなく、JR券の委託販売の事案ですので、その点も業務改善命令を出しにくいかもしれません。すなわち、ツアーの場合は、京王観光の会計(売上)を通りますが(法的用語の「自己の計算」というもの。)、JR券の場合はJRに代わって販売しているだけ(駅前の雑貨屋が売っている切符と同じ理屈)なので、旅行業法の規制外とも思われますし。細部が判明しないと何とも言えません。ただし、ツアーの一環としてJR券を出している場合は旅行業法の規制がかかります。
※旅行業法の点だけちょっと判断に自信がないです。。。
京王観光は、CSR上、みどりの窓口の看板を下ろすべきでしょう。というか、JRに委託販売契約を解除されるでしょう。
(補足記事)
旅行業者ではないがマルスを置いている例
雑貨屋さんで売っている切符の例