旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 大回り乗車で6の字乗車はできるのか?

 一般に6の字乗車と呼ばれる経路が大都市近郊区間でとれるのかという問題です。大都市近郊区間とは、東京、仙台、新潟、大阪、福岡の各地域に定められている特定のエリアで、接触しない限りどの経路を通っても良いとされます。 

 

 この際、乗車券の発券形態では一度通った駅を着駅にできる6の字経路を選べるので、選択乗車においても可能ではないのか?という疑問がわきます。

 一般の方にはあまり関係ないかもしれませんが、年末年始の大回り乗車をされる方には大きな論点です。

 たとえば、下記のような乗車経路です。東京→神田の最短経路の乗車券(赤矢印)で乗車して、田端→池袋→代々木経由(青矢印)が可能なのか。年末年始大回りの場合は、北小金→馬橋ではなく、北小金→新松戸の乗車が可能かどうかという論点です。

 もちろん、実際の乗車経路に応じて乗車券を購入することは可能ですし、東京→秋葉原秋葉原→神田の連続乗車券、あるいは東京→神田と神田→神田の連続乗車券とすることも可能です。

 ここでは東京→神田を最低区間の乗車券(150円)で上記の経路で乗車できるのかという問題として扱います

 

 対象の規定は二つです。まずは選択乗車です。

第157条2項

  大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び普通回数乗車券(併用となるものを含む。)を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、区間内の他の経路を選択して乗車することができる

 「他の経路」に、田端→池袋→代々木を経由する6の字形態が含まれるのかです。

 「他の経路」として参考になるのは、片道乗車券の規定です。

 

 第68条4項

1項

 営業キロ又は擬制キロを使用して旅客運賃を計算する場合は、別に定める場合を除いて、次の各号により営業キロ又は擬制キロを通算して計算する。

 (1項1号~3号、2項、3項略)

4項

 前各項の規定により、旅客運賃・料金を計算する場合で次の各号の1に該当するときは、当該各号に定めるところによって計算する。

 (1) 計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。

 (2号、3号略) 

 この規定をベースにして、26条1号により片道乗車券の発券経路が決まります。

 ということは、環状線1周が経路を延ばせる限界です。最長片道きっぷでいったん新大村や長万部を通ってから新大村や長万部に着きますが、それと同じです。

 

 【6の字乗車を可能とする説の根拠】

 通常の片道乗車券で6の字乗車ができるのであれば、選択乗車の経路としても可能であろうとするものです。

 その昔、1周形態を片道乗車券で売ることは許していませんでした(旧国鉄旅客及荷物運送規則13条但書)。このときは回遊乗車券という現在の連続乗車券に似た乗車券を用いていました。しかし、その後、6の字経路を明確に認めて、そのあとに大都市近郊区間の制度ができたのであるから、6の字経路は選択乗車の形態として黙示的に認めているのではないかといえます。

 また、約款の解釈が分かれる際は、事業者側に不利に解するという信義則上の要請もあると思います。

 以上より選択乗車においても片道乗車券の発券形態と同様の6の字乗車が可能という判断が可能です。

 

 【6の字乗車を不可能とする説の根拠】

 こちらは単純です。いったん目的の駅に着いた以上は運送債権の行使は終了しているということです。東京→神田の最短経路の乗車券の場合は、神田に着いた時点で券面通りの運送債務は終わっているからで、その先、一周させるようなサービスまで行っていないという解釈です。

 そもそも選択乗車の制度は、区間変更などをされるとお互いに手間なので、事務処理上の便宜を図るために設けられているものです。この趣旨に沿えば、本来6の字で乗車券を買ってもらわないといけない旅客が最短経路の乗車券で乗ることができるようなサービスを規則制定者が意図してないという推定です。6の字で乗りたければ、最初から6の字で購入するか、区間変更をしてくれということです。

 また、6の字経路は乗車券を発券するときの条件であって、制度的に違う選択乗車の経路には適用されないと解釈することも根拠の一つです。

 

 以上のように解釈としては五分五分の様相です。わたくしは後段の説を支持します。

 

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 JR3社の回答は下記の通りです。ただし、ネットの情報によるとJR東日本は尋ねるタイミングによってまちまちな回答があるようです。いちおう窓口レベルではなく、しかるべき部署まで持ち上げてもらって回答をもらいました。

 

 JR東日本】【JR西日本

 最初に着駅を通ったときに目的地に着いたとみなすため、6の字乗車は不可。もちろん6の字経由の乗車券を購入した場合は、その経路通りの6の字乗車はできる。

 

 【JR九州

 特に理由の明記はないものの可能であるとのこと。

 

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 ここで終わらないのが本ブログです。

 では、最短経路の乗車券で6の字乗車を許さないJR東日本JR西日本において、次のような6の字乗車は可能なのか疑問がわいてきます。

 例えば、東京→秋葉原御茶ノ水→神田の乗車券(赤矢印)で、上記の田端→池袋→代々木(青矢印)は経由できるのかです。


 これは可能ですよね。まず、最初に神田についた時点では、券面経路の旅行は終わっていませんし、そこから選択乗車が始まるので田端→池袋→代々木→御茶ノ水と進むことが可能です。そして、御茶ノ水→神田と正規のルートに戻るわけです。

 

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 ちなみに、ICカード乗車券ではそもそも環状線1周経路は認められてないので、6の字乗車は成り立つ余地はありません。

 

www.estoppel.jp

 

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