前回の記事の続編で、代替施設のあっせんも補償料の支払いも拒否された場合の請求内容です。実際には泣き寝入りを期待して勝手に宿からキャンセルしてくる事例があるらしいんですよね(法的にはできないんですけどね)。
1 代替施設を探してもらえない場合
モデル宿泊約款の規定をみてみます。
(契約した客室の提供ができないときの取扱い)
第 14条 当ホテル(館)は、宿泊客に契約した客室を提供できないときは、宿泊客の了解を得て、できる限り同一の条件による他の宿泊施設をあっ旋するものとします。
2. 当ホテル(館)は、前項の規定にかかわらず他の宿泊施設のあっ旋ができないときは、違約金相当額の補償料を宿泊客に支払い、その補償料は損害賠償額に充当します。ただし、客室が提供できないことについて、当ホテル(館)の責めに帰すべき事由がないときは、補償料を支払いません。
代替施設を探してくれないということは、この他の宿泊施設を斡旋する義務に違反するということです。探さずに違約金を支払うとしても違反です。まずは探すことが第一の義務です。
債務不履行の上、約款上の行為義務すら放棄するという最低な対応ですよね。
このような場合は、民法の542条の「債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」に該当するので、客の側から即時解除できます。そのうえで損害賠償請求をするのです。
2 損害賠償請求額の算定
すでに契約は解除しているので、約款には拘束されません。だから、約款における賠償額の上限規制(上記の違約金相当額)は外れます。
では、損害賠償額には具体的に何が含まれるのか。
(1) 代替宿泊先の宿泊代との差額
代替施設を自分で予約し、支払った宿泊料との差額。できる限り同一のグレードを選ぶ必要があります。あまりにかけ離れていると相当性がないと判断されます。グレードが同じで、高いところしか空いてないのであれば、認められる可能性が極めて高いです。
このとき周辺相場が高騰していた場合は、その高騰している金額をベースに請求可能です。判例の傾向として、損害発生時の相場基準になるので、拒否されて速やかに代替施設を予約したのであれば、宿泊施設側の当然予見すべきであった事情になるので、特別損害として上乗せできるでしょう。
(2) 交通費
当該の宿泊施設から代替施設までの往復タクシー代です。鉄道やバスに乗った場合はその分も請求可能です。
(3) 手配手間賃
ネットで簡単に予約できた場合はあまり関係ないでしょうけど、繁忙期で、何か所も電話して時間をかけたのであれば、電話代や労務賃の請求が可能です。
(4) 遅延損害金
損害が発生した日から支払日までの遅延損害金を上乗せできます。
とまあ、辛口で書くとこうなりますが、実際にここまで行くことはないでしょう。
公開されている判例を全部見ましたが、ありませんでした。