答えからいうと原則は譲渡できますし利用可能です。ただし、例外もあるので、最後まで読んでください。
まず、せっかくなので、民法までさかのぼってみましょう。民法は466条1項で「債権は、譲り渡すことができる」としています。債権譲渡自由の原則ですね。乗車の権利も債権にあたりますので、ひとまず民法上は譲渡可能と理解できますね。
そして、乗車債権を証明するものとして乗車券があり(証拠証券)、鉄道営業法15条では、乗車券がなければ、原則として乗車することはできないと記載されています。これは法律の専門用語でいうところの対抗要件にあたります。非常に多くの人を相手にするので、定型的な形で処理せざるを得ず、乗車券というものを必要としているわけです。 逆に見ると、乗車券をもっている者が、譲渡された者も含めて正当な権利者であると推定しているということができます。
なお、運送契約自体は、口約束でも成立します。典型的な例はタクシーです。
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さて、ここからは営業規則の話になります。同じく乗車券の譲渡は自由ですが、鉄道会社に対して有効か無効かが変わってきます。すげー理屈っぽく言うと、譲り合った当人同士では有効でも、鉄道会社に対しては無効の場合(対抗できない場合)があるということです。法的にいうと、譲渡禁止特約の対抗力ですね。
1 利用者や条件が決まっている場合
(1)小児乗車券
大人が小児の乗車券を使用することはできません。逆は可能です。
(2)学割乗車券などその人の属性や条件に関するもの
これは同じ学生同士であっても無効です。購入時に提出した証明書に記載されている人物が、身分証明書を携帯して、使用する場合に有効になるのです。代理で購入することは、その身分が無くても可能です。
身体障害者用や国会議員用なども同様です。
(3)記名式の乗車券
代表的なものは定期券ですね。しっかり名前が書かれると思います。
ただし、定期券でも持参人定期券は誰でも使えますので、これは便利ですよ。
東京メトロの例 → 全線定期券 | PASMO・定期・乗車券 | 東京メトロ
こちらはJRバスの持参人定期券です。
次はフルムーン夫婦グリーンパスです。かなり厳格に運用されています。
裏面には身分証明書を携行するような注意書きがあります。
同様に、外国人用のジャパンレイルパスなども厳格に運用されていますよね。
いまはなき国際乗車券。これなどは、フェリーに乗る際はパスポートも必要です。これも記名された者しか使用できません。
かつて発売されていたEEきっぷです。これを見ると、だいぶ不正使用が疑われたことが推測されます。
最初は無記名だったのですが、記名式に変更されました。おそらく15000円で特急にも乗れて3日間も有効なので、複数名で使用されることを懸念したのでしょう。
2 回数券
いうまでもありませんね。1券片ごとに使用可能なので、他人への譲渡も可能です。ただ、むかしは切り離し無効だったので、ばらして譲渡することは無理でした。
3 途中まで使った乗車券
だんだんマニアックな話になってきます。
上述の通り利用者や条件が限定されてない限り購入者と別人であっても有効であることは分かりましたが、途中まで使った場合はどうなのでしょうか。考えたこともないと思います。
先日の記事で、途中下車をしたあとに、途中下車した駅かその先の駅で再度乗車することが可能なことを書きましたが、それが別人の場合に有効かという話です。
これはできません。営業規則の167条1項7号に「旅行開始後の乗車券を他人から譲り受けて使用したとき」は無効として回収するとあります。ただし、払い戻しは代理受領と考える余地があるので、他人であっても払い戻し可能と考えてよいでしょう。
では、往復乗車券や連続乗車券の片方を他人が使えるのか。これも使えません。
これらの乗車券は、片方を使用したところで全券片の旅行開始となるので、上記の規定から他人が使用することはできません。他人による払い戻しは許容されるでしょう。
4 途中まで使って死亡した場合
乗車券ではレアなケースですが、回数券や定期券ならありえますね。これは基準規程の339条に明記されていて「引取人」の請求で払い戻しするような手続きが明記されています。引取人というのは、旅行中に死亡した場合の遺体の引取人を指すので、かならずしも相続人に限りません。
なお、相続人であっても、死亡者の乗車券を使用することはできません。上記の167条に抵触するからです。
6 セットになっているキップの片方
以前は連綴式のキップがありました。
左が乗車券、右が急行券ですね。鋏もそれぞれに入っています。
現在はこのタイプになります。
これらのキップで急行や特急で行く予定が普通に乗ってしまった場合、車掌や着駅などで誤入鋏処理をしてもらい、あとでそれだけ使うことも可能ですし、払い戻しもできます。単に便宜上、一緒になっているだけで、役割は別々だからです。
マルス券に赤色で「上野 特急券無効」とありますよね。あれは上野駅の新幹線改札をでたところで、特急券だけが無効になったという意味です。
例えば、この乗車券で特急券部分だけ変更をすると、1枚だったものが、乗車券と特急券に分かれて2枚で返されます。乗車券部分に変更ないけど、特急券部分に変更があり、[乗変]を表記しないといけないので、2枚に分割せざるを得ないからです。そこからも役割としては2枚というのがわかります。
これなどが分割したあとの乗車券です。1/13に特急券と乗車券が一緒になった券で、特急部分を精算所で払い戻して、乗車券のみで東京に向かった場合です。当時の精算所はマルスをおいてないので、改札補充券で作成したのだと思います。
では、セットのキップで、片方しか使ってない場合に他人が使用できるのか。これも可能と考えます。単に一緒になっているだけで、役割としては別々のキップだからです。
7 青春18きっぷ
こちらも気になりますね。昔は冊子になっていて、それぞればらせました。
これは登場時から、一人でつかっても、複数名で使ってもよいという触れ込みでアピールされていましたので、ほとんどの方が家族や友達同士でそれぞれ使った経験があると思います。金券屋でも売買されていましたね。これも問題ありません。
では、現在のように1枚になった青春18きっぷはどうか。
これも物理的にばらせないようにしただけで、複数名の使用が可能なので、譲渡も黙認されています。だから、金券屋やヤフオクで一部使った物を目にするのです。これは私自らが使用したもので、忙しくて3回分しか使用できていません。金券屋に売れることは分かっていましたが、手元に残したいので、放棄してコレクションにしました。