旅と鉄道の美学

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【国内旅行系】 宿のオーバーブッキング1(約款上の請求)

 ホテルや旅館などのミスでオーバーブッキングとなり、泊まれる部屋がない場合の問題です。このようなとき、一般的には、タクシーでの送迎付きで近所のグレードの高い宿泊施設に案内されることが多いとききます。それは、お詫びの意味も含めてサービス業としての誠意を見せた対応なわけです。

 しかし、ここでは法的に要求できる最低ラインを模索します。万が一、理不尽な対応にあったら、参考にしてください。最近では、宿泊施設側から一方的に解除してくるような事案もあるようですし(やれないんですけどね)。

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 先に結論だけ書いておきます。3000円の格安プランで予約した場合と相場の6000円で予約した場合で、さらに相場が値上がりしていた場合と見つからなかった場合に分けています。

 なお、代替施設へのあっせんも補償料の支払いも拒否された場合の問題は次回に扱います。

 

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 それでは国土交通省の出しているモデル宿泊約款をもとに問題点を整理していきます。

 

1 宿泊契約の成立時期

 (1) 直接予約

 まず、宿泊契約が成立している必要がありますので、そのタイミングを確認します。

(宿泊契約の成立等)
第3条 宿泊契約は、当ホテル(館)が前条の申し込みを承諾したときに成立するものとします。ただし、当ホテル(館)が承諾をしなかったことを証明したときは、この限り
ではありません。

 約款によると、宿泊施設側の承諾が必要です。ごく当たり前のことが書いてあるだけです。

 

 (2) 予約サイト経由での予約

 むかしのように電話で宿に申し込む場合は、即決なので問題ないのですが、予約サイト経由の場合はタイムラグなどがあるので、判断に迷います。複数のサイトに空室在庫を出している場合、通常はサイトコンロ―ラーを使って自動的に在庫の管理をしているのですが、それでも完璧ではないようです。もちろん手作業でやっている宿泊施設も多いでしょうし、自社サイトと連携できていない場合もあるでしょうから、少なからずミスが生じると思われます。

 

 代表的なところで、楽天トラベルで確認します。 

楽天グループ株式会社・旅行業約款 (手配旅行契約の部)
(契約の成立時期)
第七条
手配旅行契約は、当社が契約の締結を承諾し、第五条第一項の申込金を受理した時に成立するものとします
2.通信契約は、前項の規定にかかわらず、当社が第五条第二項の申込みを承諾する旨の通知が旅行者に到達したときに成立するものとします。

 ネットでの申し込みは承諾通知が届いたときに成立とあります。

 次にもう少し詳細に書かれている利用規約も確認します。

 

楽天トラベル」利用規約

第24条(宿泊予約サービスにおける旅行契約とその変更・解除)
1.旅行契約は、旅行条件書の定める時点で成立するものとし、当社は旅行契約の成立を条件に、予約内容に応じた宿泊施設の手配を媒介により行うものとする。

 旅行条件書の定める時点とあるので、旅行条件書を確認します。

楽天トラベル 旅行条件書 (宿泊サービスのみの国内手配旅行)

第1条(手配旅行契約)
1.本旅行条件書の対象となる旅行は、弊社がお客様のために媒介する、国内の宿泊機関における宿泊とします。
2.本旅行条件書において「旅行契約」とは、弊社がお客様の依頼により、お客様のために媒介することにより、お客様が宿泊機関の提供する宿泊サービス(付随するサービスを含みます。)の提供を受けられるように、手配することを引き受ける契約をいいます。
3.弊社が善良な管理者の注意をもって旅行サービスを手配したときは、満員、休業、条件不適等の事由により、運送・宿泊機関等との間で旅行サービスの提供をする契約を締結できなかった場合であっても、手配旅行契約に基づく弊社の債務は終了します。


第2条(旅行の申し込みと旅行契約の成立時期)

 (1項略)

2.旅行契約の成立時期は、以下のとおりとします。
(1) 当サイトに予約申し込みした場合、お客様が、本旅行条件書および予約内容を提示するページ(以下「予約内容提示ページ」といいます。)に記載された旅行契約の内容(第3条1項に定めます。)および旅行条件等に同意のうえ予約申し込みを行い、当該予約申し込みが弊社によって承諾された時点とします。弊社は、かかる承諾後直ちに、予約成立した旨を予約確認ページ(第3条第2項に定めます。)に表示します。
(2) 宿泊予約センターに予約申し込みをした場合は、弊社が当該予約申し込みを口頭で承諾した時点とします。ただし、お客様は、第4条第2項により交付された書面により、契約内容に錯誤があったことが判明した場合には、旅行契約を取り消すことができます。

 楽天トラベルが承諾したときが宿泊の媒介契約が成立したときです。旅行業約款と利用規約の内容に矛盾はありませんので、重畳適用と考えます。この時は宿泊施設からの承諾をもって返事をしているので、客と宿泊施設の契約も同時に成立します。

 なお、満室で泊まれないとしても、予約サイトが善管注意義務を果たしている限り責任を負わないとしていますので、バグなどでない限り予約サイトの責任を追及するのは難しいです。

 ひとまず予約サイトへの損害賠償請求などは難しいことがわかります

 

 (3) 宿泊約款が無効の可能性がある

 鉄道やバスと違って、ネット上への公表では足りませんので、宿泊約款を用いるといった通知や、事前に内容の提示などがない限り、約款の適用が無効になる可能性があることはまず挙げておきます

 

 さて、楽天トラベルの呈示する旅行条件書のオーバーブッキングが関係しそうな部分です。

楽天トラベル 旅行条件書 (宿泊サービスのみの国内手配旅行)

第3条(申し込み条件)
1.弊社は、以下の事項を予約内容提示ページに表示するものとし、その記載は、本旅行条件書の一部を構成するものとみなします。
(1)宿泊する施設および宿泊サービスの内容
(2)旅行日程
(3)旅行代金その他宿泊に通常要する費用
(4)宿泊機関が提示する取消料、変更料、その他旅行契約の変更または取消の条件
(5)旅行地における安全確保または衛生に関する特別の注意事項があるときは、当該事項
(6)その他の旅行条件
2.弊社は、旅行契約成立後、第1項各号の事項をお客様が予約内容を確認するページ(以下「予約確認ページ」といいます。)に表示します。
3.お客様は、第1項により表示された事項、本旅行条件書、弊社旅行業約款、別途定める「楽天トラベル利用規約」を確認し、これらに同意のうえ、旅行の申し込みを行うものとします。

 (4項以下略)

 これに基づいて予約内容提示ページが表示されるのですが、オーバーブッキングについては何も記載がなかったです。

 従って、現状の予約サイトの形式だと、宿泊約款を用いる旨の文言もなく、旅行条件書には約款の内容すべてが書かれているわけでもないので、オーバーブッキングの際の宿泊約款の規定は無効となる可能性が極めて高いと思いますが、深入りしません。この点の指摘は、すでに谷澤一『ホテル旅館営業の法律講座』(柴田書店、1980)236頁にありました。宿泊施設側にとって、これは意外と大きなリスクです。訴訟になったら宿泊施設側が負けます。

 ひとまず、宿泊約款が適用されると仮定して論をすすめます。

 

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 なお、団体の宿泊申し込みなどで契約にいたらなくても、そこに至るまでの間に数々の交渉をかさね、契約になるであろうことが十分に期待されたにも関わらず、理不尽な理由や相手の過失で契約が締結できなかった場合も損害賠償請求できることがあります。長くなるので省略しますが、「契約締結上の過失」で検索してください。

 

2 約款上宿泊客から解除できるのか

 オーバーブッキングを理由とした即時解除はもちろん可能です。

(宿泊客の契約解除権)
第6条 宿泊客は、当ホテル(館)に申し出て、宿泊契約を解除することができます

2. 当ホテル(館)は、宿泊客がその責めに帰すべき事由により宿泊契約の全部又は一部を解除した場合(第 3 条第 2 項の規定により当ホテル(館)が申込金の支払期日を指定してその支払いを求めた場合であって、その支払いより前に宿泊客が宿泊契約を解除したときを除きます。)は、別表第 2 に掲げるところにより、違約金を申し受けます。ただし、当ホテル(館)が第 4 条第 1 項の特約に応じた場合にあっては、その特約に応じるに当たって、宿泊客が宿泊契約を解除したときの違約金支払義務について、当ホテル(館)が宿泊客に告知したときに限ります。

3. 当ホテル(館)は、宿泊客が連絡をしないで宿泊日当日の午後 時(あらかじめ到着予定時刻が明示されている場合は、その時刻を 時間経過した時刻)になっても到着しないときは、その宿泊契約は宿泊客により解除されたものとみなし処理することがあります。

 約款に沿っても、解除することで客側に損害賠償責任は生じません。宿について、フロントまで到着したときにオーバーブッキングが判明しても解除可能で、損害賠償請求は受けません。客には何も過失がないのですから、当たり前ですね。

 

3 約款上宿泊施設から解除できるのか

 では、宿泊施設側から解除できるのか。次の項目に該当すれば可能です。

(当ホテル(館)の契約解除権)
第7条 当ホテル(館)は、次に掲げる場合においては、宿泊契約を解除することがありま
す。ただし、本項は、当ホテル(館)が旅館業法第 5 条に掲げる場合以外の場合に宿
泊を拒むことがあることを意味するものではありません。
(1) 宿泊客が宿泊に関し、法令の規定、公の秩序若しくは善良の風俗に反する行為
をするおそれがあると認められるとき、又は同行為をしたと認められるとき。
(2) 宿泊客が次のイからハに該当すると認められるとき。
暴力団暴力団員、暴力団準構成員又は暴力団関係者その他の反社会的勢 力
暴力団又は暴力団員が事業活動を支配する法人その他の団体であるとき
ハ 法人でその役員のうちに暴力団員に該当する者があるもの
(3) 宿泊客が他の宿泊客に著しい迷惑を及ぼす言動をしたとき。
(4) 宿泊客が特定感染症の患者等であるとき。
(5) 宿泊に関し暴力的要求行為が行われ、又は合理的な範囲を超える負担を求めら
れたとき(宿泊客が障害者差別解消法第 7 条第 2 項又は第 8 条第 2 項に規定によ
る社会的障壁の除去を求める場合は除く。)。
(6) 宿泊客が、当ホテル(館)に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊
者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求と
して旅館業法施行規則第 5 条の 6 で定めるものを繰り返したとき。
(7) 天災等不可抗力に起因する事由により宿泊させることができないとき。
(8) 都道府県 条例第 条(第 号)の規定する場合に該当するとき。
(9) 寝室での寝たばこ、消防用設備等に対するいたずら、その他当ホテル(館)が定
める利用規則の禁止事項(火災予防上必要なものに限る。)に従わないとき。
2. 当ホテル(館)が前項の規定に基づいて宿泊契約を解除したときは、宿泊客がいま
だ提供を受けていない宿泊サービス等の料金はいただきません。 

 この中にオーバーブッキングは含まれませんので、宿泊施設側からの解除は許されません

 

3 宿泊約款上の要求

 それでは宿泊施設に対してどのような要求が可能でしょうか。宿泊約款で確認します。

 (契約した客室の提供ができないときの取扱い)

第 14条 当ホテル(館)は、宿泊客に契約した客室を提供できないときは、宿泊客の了解を得て、できる限り同一の条件による他の宿泊施設をあっ旋するものとします。

2.  当ホテル(館)は、前項の規定にかかわらず他の宿泊施設のあっ旋ができないときは、違約金相当額の補償料を宿泊客に支払い、その補償料は損害賠償額に充当します。ただし、客室が提供できないことについて、当ホテル(館)の責めに帰すべき事由がないときは、補償料を支払いません。 

 第一に他の宿泊施設への斡旋義務が生じます。このとき「同一の条件」をどう考えるかが大きな問題です。昭和の時代のように地域、施設や部屋のグレード、または朝食の有無で金額が決まっていたら混乱はありませんが、いまは様々な料金形態が存在するので、迷います。

 各種の参考文献を読んでも、ここから先の詳しいことは全く書いてありません。

 契約(宿泊約款)の規範的解釈と呼ばれる問題で、当事者意思を合理的に推定するしかありません。その場合、消費者保護の視点から約款作成者に不利な解釈をするという原則があります。約款を作成する側が有利な立場であるのだから、考えられるリスクは先に織り込んでおけということです。

 ひとまず金額以外は同一グレードであることに争いはないでしょう大きな問題は金額なんですよ

 

 (1) 格安プランで予約していた場合

 たとえば、通常は6000円のところ、バースディプランなどで3000円で予約していた場合です。これと同じグレードを探そうと思っても、まず見つかりません。このとき当該エリアの周辺の相場が6000円だとして、実際に空室もあった場合に、そこへの斡旋を要求できるのでしょうか。

 できると考えます。このような格安プランは通常のグレードの部屋を特別な人にだけ格安で提供することを前提にしており、値引き分だけの利益が客にあるわけです。その期待利益をないがしろにはできません。また宿泊施設側からしたら、通常、6000円で売り出す部屋を、3000円で出しているということは、その損失は十分に受け入れているわけです。予見可能性があるといえます。

 そうなると、用意すべきは、3000円の同一グレードの部屋ではなくて、金額以外で同一グレードの部屋です。ただし、予見可能性がないような特別な事情で通常相場以上の値上がりがあれば、宿泊施設側に酷であるから、同一条件と見ることはできないでしょう。例えば、震災などで周辺のホテルが被災して、周辺ホテルも復興費用を賄うためなどに値上げしているような状況です。契約時でも予見ができないような特異なリスクの責任を負わせるわけにはいかないからです。

 また、同一金額であることを「同一の条件」に一様に含めるという解釈をとった場合、民法の定型約款の規定である548条の2第2項に基づいて相手側の利益を一方的に害するものとして無効となる可能性があります。

 

 (2) 周辺相場が値上がりしていた場合

 例えば、6000円で予約したところ、イベントの開催が決まって、同一グレードの周辺相場が既に10000円になっていた場合です。これでも、10000円の部屋を斡旋する義務が生じるのでしょうか。

 これも契約時の予見可能性の有無で判断することになるでしょう。取引慣行上、値上がりする時期であることが十分に予測されたり、イベントの開催が判明していた場合などは予見可能性があると認められます。

 この場合は、周辺相場が値上がりしていたとしても、同一グレードの部屋を斡旋する義務が生じます予見可能性がないような特殊な事情で相場の値上がりがあれば、前述の通り同一条件と見ることはできないでしょう。

 

 (3) 代替施設が見つからなかった場合の補償額(直接予約)

 2項によると、「違約金相当額の補償料を宿泊客に支払い」とあるので違約金相当額が支払われます。この金額の算定方法が、次の問題です。下記は宿泊約款の別表第2に一般的な数値を補充したものです。通常、当日と不泊で100%の違約金というのは多いでしょう。

 一つ目の論点として、2日前までなら違約金相当額がゼロなのでしょうか。確かに2日前までに客が折れて解除に合意すれば、そうでしょうけど、前日まで粘ったら、そうはいきません。客が要求する限り宿泊日までは是が非でも代替施設を探し出さないといけない義務があります。当日のチェックイン時間になっても代替施設が見つからなくて初めて履行不能が確定し、2項の補償料の話に移行するのです。

 そうなると、補償料は違約金相当額の100%です

 

 二つ目の論点として、違約金の額です。上の表からは、基本宿泊料が基準となります。基本宿泊料を別表第1から算出できます。

 こちらも「フロントに掲示する料金表」と一般的な文言を補充しました。最近だと自社のサイトで掲示するとしている場合も多いかと思います。

 通常は、定価ベースの金額が書かれていて、あまりキャンペーン価格などは載ってないと思います。

 従って、6000円と書かれていたら、格安プランで予約していたとしても、3000円ではなく、6000円を補償料として請求できるでしょう。逆に周辺相場が10000円に値上がりしていたとしても6000円までの請求にとどまります

 

 (4) 代替施設が見つからなかった場合の補償額(予約サイト経由)

 しかし、予約サイト経由の場合は、状況がかわります。通常、旅行条件書としてキャンセル料の表示があるので、そちらが特約として約款に優先します。特別規定が一般規定に優先される原則です。

 そこでは、3000円の格安プランで申し込んでいるとしても、宿泊金額の100%が違約金となっているのが通常でしょう。この場合、3000円が基準となるので、キャンセルするとともに3000円の補償金が受けられることになります

 また、周辺相場が10000円に値上がりしていたとしても、申し込んだ金額が6000円ならその金額が基準となるので、6000円の補償金にとどまることになります

 

4 斡旋する作業を怠っていた場合

 周辺相場が値上がりしていた場合などに、宿泊施設側が故意に検索を怠って、補償料での補填にもっていくことが考えられます。この場合は、信義則上、客側が代わりの宿を探してきて、それを代替施設として使ってもらうよう要求できると考えられます。これにも応じず、だらだらと引き延ばされて、最終的に補償料での補填となった場合は、宿泊施設側の重過失として認定されるので、消費者契約法8条1項2号によって宿泊約款の当該規定が無効となります。その先は約款を離れた賠償請求となりますので、次回の記事で扱います。

 

 【参考文献】

 谷澤一『ホテル旅館営業の法律講座』(柴田書店、1980)

 本多藤男『旅館・ホテルの法律相談』(創英社・三省堂書店、2012)

 雨宮眞也ほか編『Q&A 旅館・ホテル業トラブル解決の手引』(新日本法規出版、2018)

 『旅行業法解説 約款例集解説』(日本旅行業協会、2022)

 『旅行業約款 運送・宿泊約款 2024』(JTB総合研究所、2024)