しかし、自分で記入できるルールに変更してもいいのではないでしょうか。
それでは、ダメな理由を掘り下げていきます。
1 無人駅から乗った場合
18きっぷの日付ですが、最近は、無人駅やワンマン列車が増えていて、いったいどこで記入してもらったらいいのか迷う方もいると思います。
案内には、「乗車船日の記入されてないものは使用できません」とあり不安になると思います。その場合は、車掌に申し出て記入してもらいます。車掌がいない場合は、運転士に申し出る形です。
また、旅客側としては、乗車後、速やかに乗務員に申し出て日付の記入を受ける必要があります。検札が来なければ、最後尾まで歩いていくべきであるし、停車中に運転士に記入してもらう必要があります。これは旅規13条4項の「駅員無配置駅から乗車する旅客又は係員の承諾を得て乗車券類を購入しないで乗車した旅客は、列車に乗車後において、直ちに相当の乗車券類を購入するものとする」とあるから、日付の記入の場面においても類推適用できるからです。
最近はワンマンの運転士が日付の記入を断る事例をききますが、「駅員無配置駅から乗車する旅客の取扱いは、列車の乗務員が行う」(旅規15条)とあり、これに反するので不正な対応です。手書きによって日付の改ざんなどが心配される場合は、事後列車の車掌や駅の改札に申し出るよう案内すればいいのです。あるいは手書きの日付をみつけた車掌や改札掛は上からスタンプを押せばいいのです。空欄の状態でいつまでも乗車させるようでは消費者相手の対応としては不適切であるし、旅客も不安になるでしょう。何より、不正使用を誘発します。
少し困るのが、JR区間から社線直通の列車です。たとえば、会津鉄道直通列車の運転士はJRの会津若松・西若松間に乗務しますし、JR長野・篠ノ井間などもしなの鉄道の車掌が乗務します。実際に記入するような運用をしているかどうかはわかりませんが、JR区間の旅客対応を委託されていることから、JRの運転士や車掌でなくとも記入すべきなのです。
では、物理的に記入する暇がない場合はどうか。社線直通列車であまりに混雑していて、車掌や運転士に申し出る時間がないうちに社線区間に入ってしまったり、改札内でそのまま社線に乗り換えてしまった場合ですね。これは、致し方ないので、空欄の状態で旅を続けるしかありません。その後、JRの乗務員や改札掛に出会ったときに速やかに申し出るしかありません。それすらできずに旅を終わった場合は、それまでです。空欄の状態でも1回分は無効です。空欄だからといっても使用したことは事実なので、その日の分は無効なのです。
2 自分で記入できるのか?
最近はJRが関係するきっぷでも自分で日付を入れることが可能なものが出始めています。
かなり早い時期に認められた「東京フリーきっぷ」です。コインで日付を削る形式です。
こちらは手書きを認めている事例です。わたくしはきれいに仕上げようと思ったので、出札で入れてもらいました。といっても、結局、日付印を渡されて、自分で入れてますけどね。
このように明確に旅客側に自分で入れるよう要求しているきっぷは、自分で入れても問題ありませんが、それ以外は禁止されます。
では、その根拠を確認していきます。
まず、現在の18きっぷの日付は入鋏印を代用していますが、あれは歴史的にみて通用期間の補充がメインであって、ついでに入鋏しているとみるべきです。つまり便宜的に入鋏印を用いているだけです。
こちらはセットになる前の18きっぷです。
日付を記入する欄と入鋏欄に分かれています。駅から乗った場合は、日付欄に日付印を押して、右下にさらに入鋏をしました。日付は出札で入れ、入鋏は改札で入れるというのがもともと想定されていた形です(出札と改札が厳密に分かれていた時代です)。
Mの印が改札鋏(下記)を入れる場所です。車掌が記入した場合は、手書きをします。さらに規則に忠実に行うなら、検札鋏(下記参照)で印を入れるか、概算鋏(下記参照)の支点部分についているパンチで切ります。この18きっぷは検札鋏が廃止されてスタンプが登場する過渡期の赤ボールペンで印をつける措置に沿っています。さすが規則に忠実な豊橋運輸区ですね。この当時は社内補充券発行器をもっているので、概算鋏は廃止されています。
(改札鋏)
(検札鋏)
(概算鋏)
以上のことから、18きっぷにおける日付部分は、入鋏ではなく、通用期間を意味すると考えることができます。
では、きっぷにおける通用期間はどういったものか考えてみましょう。参考になるのは鉄道運輸規程です。
第十二条 乗車券ニハ通用区間、通用期間、運賃額及発行ノ日附ヲ記載スルコトヲ要ス但シ特別ノ事由アル場合ハ之ヲ省略スルコトヲ得
この規定からは、通用期間というものが、旅客との契約上きわめて重要な契約条件であることがわかります。また記入するのは鉄道会社側であって、きちんと記入したうえで交付することが予定されています。
しかし、18きっぷは、発行日に必ずしも乗車日が決まってなくてもよいのです。後日、駅なり乗務員に申し出ることで発行駅の代行として日付の補充を行うことが認められているのです。その行為は裏面の注意書きと併せて考えると、駅員か乗務員に認められているのであって、旅客が勝手にこのような行為ができないと見ることが可能です。法的には通用期間の一部が白地(しらじ)で、白地補充権は旅客には授与してないこといえるでしょう。
さて、ここで法規に強い方は、鉄道運輸規程という省令(鉄道省令)が私人間の契約を直接拘束するというのは、あり得ないのではという疑問を持つと思います。確かにその通りです。JRと旅客の契約の条件を探る資料に使うことになります。いわば間接適用するわけです。
では、運送契約における通用期間については、どう考えたらよいでしょうか。ずばりの規定がないので、いろいろな事情を加味して契約の条件を探るしかないのです。契約の規範的解釈という作業を行います。当時者がどういった条件のもとに契約を行っているのか推定していくのです。
その材料が、①18きっぷの案内文、②各駅での案内、③鉄道運輸規程となるのです。これらを斟酌すると、18きっぷには、駅や乗務員から記入を受けてくださいといった案内があるし、各駅では旅客が任意に記入してはいけませんと案内しているし、鉄道運輸規程でも鉄道会社側が記入する前提になっていることから、旅客の任意での記入は禁止していると推認できるのです。さらに、任意に記入できるきっぷは、その旨を明確にしているので、そこからの反対解釈も成り立ちます。
以上より、明確に認めてない場合は、日付を自分で記入してはいけません。
3 自分で書いたら不正行為になるのか?
問題となる規定は、旅規の167条1項5号の「改変して使用したとき」です。これに該当すれば、旅規264条によって無効になったうえ、乗車区間の運賃と、さらに2倍の増運賃を支払う必要が出てきます。
しかし、基準規程162条には「旅客に悪意がなく、その証明ができる場合は、適用しないものとする」とあることから、不正行為とはならない可能性が非常に高いです。混雑していて車掌のところまでいけなくて、無人駅でおりたときに集札されなかった時などで、やむを得ず自分で記入した場合ですね。注意事項を知らなくて、うっかり記入してしまった場合も説教だけで終わるでしょう。
4 今後は改善すべき
とはいうものの、これだけ無人駅が増えているのですから、自分で記入できるようにルールを変更すべきです。
少なくとも、検札のスタンプを持ってない車掌や、ワンマンの運転士が断るというのは言語道断でしょう。あとは、簡易委託駅の出札、旅行会社、共同使用駅の社線側改札(これはやってくれる例が多い)、運転担当や添乗係員などでも積極的な日付入れは運用上許可すべきと考えます。また、事前の記入(登場時の通達ではこちらが原則です)も許すべきでしょう。
現状ではあまりに不便すぎます。