旅と鉄道の美学

鉄道を中心とした国内外の旅と切符など。リンクフリーです。

【コラム】 自動精算機に吸い込まれた休日おでかけパスは取り戻せるのか?

 【要点】 表示の錯誤にあたり、電子消費者契約法を根拠に取り戻せる。

 

 ある駅では休日おでかけパス(以下「パス」という。)を自動精算機(以下「精算機」という。)に投入すると、原券が回収されてしまうという挙動があるようなのです。放棄する意思はないにもかかわらず、回収されてしまった場合、これを取り戻せるのか?という疑問にお答えします。たとえば下記のような事案です。

 東京から休日おでかけパスを使って宇都宮まで乗り越しして、精算機を使用した場合です。有人改札を利用すれば、戻ってくるのですが、精算機だと回収されるらしいのです。

 

1 旅客と精算機の関係

 回収されるということは、原券の放棄を推定していることになります。係員が対応して誤って回収したときと同じです。この場合、係員なら返却してくれるにもかかわらず、精算機だと返してくれないというのはおかしな話だと思いませんか。

 このあたりは約款にも規定がないので、民法で判断するしかありません。

 

2 錯誤取消可能か?

 錯誤の規定を見てみましょう。赤字を追ってください。

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 まず、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであることは分かると思います。パスが回収されては、この先、乗車できませんし。

 次に、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」かですが、放棄の意思はないので、該当しますね。

 最後に旅客に重過失がないことが求められますが、うっかり入れてしまった程度では軽過失です。さらに、案内放送があったり、精算機付近に注意書きがあっても、軽過失にとどまります。もし、精算機をご利用くださいという案内放送をしているのであれば、なおさら旅客の過失を軽減する方向になります。

 したがって、ちょっとグレーな部分もありますが、取消可能となり、パスは返却されることになるでしょう。

 

 なお、旅客と機械の両方が錯誤に陥っていた(双方錯誤)と考えて、「相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき」とみる余地もあります。そうなると、重過失すら不要です。

 

 

3 電子消費者契約法で取消可能か?

 今回の件はもっと具体的な法律があります。この法律は、簡単にいうと、パソコン等の画面を通して行った法律行為についてうっかり間違った場合に救済する意味で存在します。

 

 まず、精算機にこの法律が適用されるのかです。

(定義)
第二条 この法律において「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう
2 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「電磁的方法」とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。

 読んでいただければわかるように精算機は電子計算機であり、なおかつタッチパネルという映像面を介して送信しているので、該当します。それから、今回の場合、パスの運送契約の債権放棄を意味しますが、運送契約の中途での解消契約(解消の意思表示)ということができます。

 

 次に具体的な意思表示に関わる部分です。


(電子消費者契約に関する民法の特例)
第三条 民法第九十五条第三項の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その意思表示が同条第一項第一号に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、かつ、次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

 

 今回は、パスを放棄するという、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であり、承諾の意思も欠けるので、該当します。したがって、この規定により旅客に重過失は不要となりますから、うっかり投入したとしても取消可能となり、パスは返却してくれるはずです。

 

 ちなみに、この規定があるので、飲食店のタッチパネルなどは確認ボタンがあるのです。精算機も、「投入したきっぷはまだ使いますか?」という確認画面を出さないとこのように取消されてしまいます。JRにはこの部分の改善を求めたいと思います。あるいは定期券と同様に返却すればいいのです。

 なお、精算機で返却すると、再度、使われて不正精算を招く可能性が考えられます。この場合は、精算原券として使用済である旨の磁気情報を書き込むか、「まだ使用する」のボタンを押した場合には「係員にお申し出ください」と表示して、精算せずに返却するのが一番良い方法です。