旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 自由席充当というのは権利なのか

 結論を先に書いておきます。権利ではありません。

 

 前回の記事で他人に特急列車の指定席が占領されている場合、車掌に相談すれば、当該旅客を注意してもらえるが、難しい場合は、代わりにほかの席を用意してもらえる可能性があると書いたところです。

 このうち自由席充当の件をもう少し掘り下げます。

 

1 原則(同じ指定席への移動)

 大原則は、車掌が注意して間違って座っている人をどかすことになりますが、傍若無人な人など、らちが明かない場合もあります。その場合、車掌としては被害を受けている客になんとか代替の席を用意する必要がありますので、同じグレードで空いている指定席を案内することになります。席の故障や汚れなどが原因で席を移動するのと同じです。基準規程370条2項での処理となります。この規定は「する」という表記になっているので、車掌はこの処理をしなければなりません。内部規定ですが、旅客側からこれを根拠に主張することは問題ありません。旅規182条の4(「その券面に指定された列車、旅客車若しくは座席に限って乗車することができる」)の有力な解釈根拠となるからです。

 なお、この時点では旅客側から「自由席に変更したい」という希望が出せるわけではありません。出した場合は、おそらく持っていた特急券に立席証明をして、別途、自由席特急券を発売することになるでしょう。そのうえで、立席証明をした特急券を無手数料で払い戻すという形です。結果として、差額分だけ返金されるということですね。

 したがって、勝手に自由席に移動するなどはやめましょう

 

2 普通指定席が空いていない場合

 普通指定席が空いてない場合に、グリーン席(特別車両)に移動できるかは争いがあるところでしょう。同じ指定席であっても、グレードが違いますので、鉄道会社側の裁量と考えます。ただし、旅客への配慮や立席証明で払い戻されるリスクを考慮して、グリーン席への移動を認める可能性が高いです。

 

3 普通指定席もグリーン席も空いていない場合

 この場合は、さきほどの基準規程の内容からすると、立席証明をして、着駅なりで無手数料で払い戻してもらうしかないことになりますが。。。事項に続く。

 

4 自由席充当という話

 ここでやっと「自由席充当」が登場します。ただ、根拠規定はありません。

 JR東海の関係者などにきくと、運用上は、定着している制度のようです。自由席に案内して、自由席充当の証明をして、半額の払い戻しを行うことです。新幹線の車掌が所持している業務連絡書のフォーマットから察するに事故列変の規定(基準規程371条)を類推適用していると思われます。

(列車の変更の特殊取扱方)
第371条 次の各号の1に該当する場合(規則第57条第7項の規定を適用して発売した指定席特急券にあつては、使用開始後に当該指定席特急券のうちの一部の列車が該当する場合を含む。)、当該列車に有効な指定券を所持する旅客が、他の列車の乗車券類に変更の申出をしたときは、旅客が所持する指定券に表示された列車の乗車駅を出発する日と同じ日に出発する列車(その乗車駅において最終と認められる列車を含む。) の乗車券類に変更の取扱いをすることができる。ただし、指定特別車両券、寝台券又はコンパートメント券以外の指定券から寝台券への変更の取扱いはしない。
 (1号~5号略)

2 前項の規定により、列車の変更の取扱いをする場合は、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。
 (1号略)
(2) 料金の収受方
ア 原指定券に対する料金額と変更する乗車券類に対する料金額とを比較し、過剰額は払いもどしをし、不足額は収受しない

イ 指定特別車両券、寝台券又はコンパートメント券から指定特別車両券、寝台券又はコンパートメント券以外の乗車券類に変更の取扱いをするときは、原指定券の特別車両料金、寝台料金又はコンパートメント料金を払いもどしのうえ、アの取扱いをする。

ウ ア及びイの規定にかかわらず、指定席特急券(特別急行・特別車両券及び特別急行・寝台券を含む。)から立席特急券又は自由席特急券に変更の取扱いをするときは、原指定券の特別急行料金(規則第57条第7項の規定を適用して発売した特別急行券にあつては、変更する特別急行列車の乗車区間に対する特別急行料金)の半額及び特別車両料金(規則第58条第7項の規定を適用して発売した特別車両券にあつては、変更する特別急行列車の乗車区間に対する特別車両料金)又は寝台料金の払いもどしをする。
 (3号略)

 規定上は立席証明をして全額払い戻しなのですが、自由席が空いていたら、さすがにそちらを案内すべきであって、立ったままでいてくださいというのは、あまりにも酷ですよね。もちろん指定券は全額払い戻しの前提で、自分から自由席に移動して自由席特急券を別途購入するという方法は可能ですが、被害者にそこまでさせて、結果として何も恩恵がないというのは釈然としません(感情論です。)。JR東海以外は、積極的に自由席充当をやってないような様子が散見されます。

 

5 車掌は自由席充当に応ずる義務があるか

 旅規上は、そのような義務は出てきません。あくまで券面の席に座れる権利があり、座れない場合に車掌が別の指定席を提案してきたら、それを代替として受け入れるところまでです。もちろん、旅規上は、当該座席に対する権利なので、車掌の提案を断って、立席証明を要求する権利はあります。

 ただ、自由席を使わせてくれという権利までは導き出せません

 とはいうものの、客に自由席を使わせてくれといわれて、むげに断るというのも、公共交通機関としてどうかと思うわけですよ。自由席充当ぐらいして、半額の払い戻しまでやってあげてもいいと思うのですけどね~。そのあたりの価値判断が各社の対応の差に表れているのでしょう。結局、JR東海が手厚いということですね。東海なら半額払い戻し、ほかは事実上、差額払い戻しになる傾向があるようです。でも、差額払い戻しでは、単に自由席特急券を購入したこととおなじで、指定券をわざわざ購入した苦労が失われてしまいますよね。

 なお、JR各社にあっては、このような場合の処理を旅規に明記するすることをお願いしたいところです。消費者契約の視点から明確性が要求される昨今、まちまちな取り扱いは望ましくありません。

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