東海道、山陽、九州、西九州新幹線における特大荷物保管場所で正当なきっぷを持つ者同士がバッティングしたらどうなるのかという話です。次の記事におけるJRの回答をもとに考察していきます。この記事では、やむなく車掌がデッキに置くように案内したという話ですが。。。少しモヤりますよね。
記事中にはJR東海の回答として次のようにあります。
回答では「特大荷物スペースは、ご予約されたお客様でスペースを共用していただくため、お客様同士で譲り合ってご利用いただくようお願いいたします。お困りの際は、お近くの乗務員までお知らせください」「特大荷物スペースに持ち主不明の荷物が置いてあった場合やお困りの際は、荷物にお手を触れることなく、お近くの乗務員までお知らせください」と利用に際しての注意点を明記。特大荷物スペースは予約した乗客同士で譲り合って使うことが前提となっており、1席分の予約で1席分のみのスペースしか使えないわけではないという。
1席分の予約でも、大きな荷物であればその場所を占有できてしまい、同じ保管場所を使う方とは当人同士で何とかしてくれというものですが、なにかすっきりしない部分が残ります。
1 制度趣旨は手回り品切符である
旅規308条に無料手回り品(無料で車内に持ち込める手回り品のこと)の規定があり、その例外として「東京・博多間、博多・鹿児島中央間及び武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車における無料手回り品の持込方等」として置かれています。つまり、手回り品規定の一環です。
そうなると託送荷物(荷物室などに預けるスタイル。現在の日本にはない。一畑電鉄にあり。※)などととは違って、保管場所も含めて自分で荷物を管理することとなります。
※2025.11.7訂正
2 新幹線の大型荷物持ち込み特例
では、今回の事案にかかわる規定部分を確認してみましょう。規定を図式化しました。文言は要約してあります。また、A~Dはわたしが便宜上、つけたものです。

この規定からは所定の保管場所を使っていいということであって、専用の保管場所が確保されているわけでないことがわかります。
① 専用の指定券を購入した場合、特大荷物を車内に持ち込む権利はある。
② 指定の保管場所に置く権利もある。
③ 先に荷物が置かれていたら、先の荷物が事実上、優先される。
③の場合、他の客の権利とかち合ってしまうので、権利を持っている者同士の戦いになるのです。だから、JRの見解も譲り合ってとなっているのでしょう。裏を返せば自由競争ということです。あるいは時の運。
法的な議論にもっていけば、先に荷物を置いた者に保管場所の占有権が与えられて、公示の機能をはたすので、後から来た人は置くことができないとでもいえましょうか。
そして、おけない客には②の権利が残っているようにも見えますが、よく読んでください。B部分に係員が指定する保管場所とあります。そしてDのとおり指定することがあるわけです。ということは、所定の保管場所ではなく、車掌が別の場所を指定する場合もあり、客はそれに従う義務があるのです。客にあるのは大型荷物を車内に持ち込む権利だけです。なかなかうまい規定になっています。それでデッキを指定されたのであれば、デッキが当該特急券に付随した荷物置き場になるということです。派生するクレームを完全論破できる理論武装ぶりです。
ただ、有料なのに混乱しそうな運用をするのはいかがなものかと思いますよ。ぱっと見、1か所1名だと見えなくもないから客は自分だけと期待するでしょう。先に乗った人が優先されるというのも心情的にすっきりしません。1か所1名の運用じゃダメなんでしょうか。
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いちおう上図の元となった規定も次に掲げておきます。赤字部分だけ追ってもらえばいいです。
(東京・博多間、博多・鹿児島中央間及び武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車における無料手回り品の持込方等)
第308条の2
前条第1項の規定にかかわらず、旅客が、東京・博多間、博多・鹿児島中央間又は武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車(ただし、別に定める列車を除く。)に乗車する場合は、前条第1項に規定する制限内であって、かつ、3辺の最大の和が160センチメートルを超える物品(ただし、前条第2項に規定する物品を除く。)については、その乗車区間に対して、当社が別に定める座席を指定する指定券を当該列車に乗車する前に購入することをもって、これを車内に持ち込むことができる。
2
旅客が、前項の規定による指定券を当該列車に乗車する前に購入しないで当該物品を車内に持ち込んだ場合であって、当社が特に認めたときは、第312条の規定にかかわらず、旅客の1回の乗車ごとに持込手数料1,000円を収受したうえで、乗車を継続させることがある。この場合、前項の規定による指定券(満席等のときは、当該座席以外の指定席の座席車又は特別車両の座席を指定する指定券とする。)にかかる発売又は変更等の取扱いを行うものとする。
3
旅客が、前各項の規定にかかわらず、当該物品を車内に持ち込んだ場合であって、次の各号の1に該当するときは、当該物品の持込みを認めることがある。
(1)第284条第1項第1号ただし書又は同条同項第2号の規定により、無賃送還区間を新幹線の特別急行列車により乗車させるとき
(2)第285条の規定による他経路乗車の取扱いにより、他の特別急行列車から東京・博多間、博多・鹿児島中央間又は武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車に乗車させるとき
(3)第289条第1項の規定により、同一方向の他の新幹線の特別急行列車に乗車させるとき
4 旅客は、前各項の規定により、当該物品を車内に持ち込んだ場合は、当社が別に定める新幹線手回り品保管場所又は係員が指定する保管場所に当該物品を保管しなければならない。
(東京・博多間、博多・鹿児島中央間及び武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車の新幹線手回り品保管場所の使用方等)
第308条の3
前条の規定によるほか、旅客が、東京・博多間、博多・鹿児島中央間又は武雄温泉・長崎間の新幹線の特別急行列車の車内に物品を持ち込む場合であって、前条第1項に規定する指定券を所持しているときは、当該指定券により指定した乗車する日、列車、乗車区間において、前条第4項に規定する新幹線手回り品保管場所を使用することができる。
2
旅客が持ち込んだ物品の形状の他、車内の状況等により、その物品の一部又は全部を新幹線手回り品保管場所に保管することができない場合は、車内において係員が他の保管場所を指定することがある。この場合、当該保管場所を新幹線手回り品保管場所とみなして取り扱う。