イベントなどにおいて旅行業登録が必要かどうかを判断するに際して、参考となる裁判例なので、掲出しておきます。最終的に有罪で確定した事例ですが、判断基準は参考となるでしょう。要点を早く知りたい方は3を参照してください。
1 事件の概要
バイクのクロスカントリーを主催する団体が、ツアーとセットで募集した企画(北京からローマまでバイクで移動)が旅行業違反として検挙されて、刑事責任をとわれた裁判です。パンフレットによると、1名あたりの参加費用は258万円で、その中には、往復の航空代金、現地宿泊料金のほか、食事代、バイク輸送代、整備費用等が入っていました。さらに、仮申込書も添付されていたというもので、旅行の企画そのものの様相だったようです。ただ、旅行に関する部分はJTBが手配旅行で引受けると記載されていたとのことです。
簡単に図示してみます。

赤色部分が「運送等サービスを提供する者との間で締結する行為」にあたるので、旅行業法2条1項柱書と同1号に該当する可能性が争われたわけです。
2 控訴審判決のポイント
今回の事例は、旅行業法2条における赤字部分の判示事項が参考になります。
(定義)
第2条 この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。
第1号 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為
(1) 報酬について
「確かに、被告人らが本件各バイクツアー参加者から受領した金員について、当時、その内訳が明確にできる状況になかったことから訴因とされた本件各運送サービスの提供に係る部分に対応する金額は明示されていない。しかし、被告会社とJTBとの間で締結された本件各契約は、受注型企画旅行契約の形式になっており、その中には当然運送サービスに関する部分が含まれているのであって、被告会社が本件各バイクツアーの参加者から受領した参加費用のうち、本件各運送サービスの提供に係る部分に対応する金額は明確にはできないけれども、その部分が本件各運送サービスと対価関係があると認められるのは明らかである。なお、当該部分に係る報酬は運送サービスに対する対価として受領するものであるから、通常、その負担に見合う金額が予定されるものと考えられるが、運送サービスとの間に対価関係が認められる以上、本件各バイクツアーから利益が生じなかったとしても、『報酬』に当たらないことにはならない」。
利益が生じないとしても、旅行に該当する金員が当該主催団体を通っている以上対価性を肯定するというものです。
(2) 事業について
被告人は、収益が上がっていないことを理由に事業が欠けることを主張したが、裁判所は「事業とは、反復継続する意思を持って一定の行為を行うことをいい、収益が上がることがその要件であるとは解されないと説示する原判決の判断は相当であ」るとし、否定した。
(3) 1号の「旅行」について
「『旅行』とは、人が住む土地を離れて一時的に他の土地に行くことをいうのであり、旅行者の保護という旅行業法の趣旨から考えると、同法2条1項1号の『旅行』とは、運送や宿泊の各サービスを利用して場所的に移動することや一定地域で逗留することを広く含むものであると解される。原判決は、本件各バイクツアーが日本と海外間の移動及び目的地までの宿泊を伴うものであるとその要素を指摘しており、本件各バイクツアーが同法にいう『旅行』を含むものであることは明らかである」。
(4) 1号の「旅行者の募集」について
「被告人らが作成、配布したパンフレットには、『主催 SSER ORGANISATION』との記載があり、添付の仮申込書のファックス送信先は被告会社とされていたのであって、本件各運送サービスの提供を含む本件各バイクツアーの主催者が被告会社である旨の表示がされている。また、前記認定のとおり、同パンフレットには、1名あたり258万円の参加費用に含まれるものとして、往復の航空代金、現地宿泊料金のほか、食事代、バイク輸送代、整備費用等が列挙されるなど、運送サービスに関係する費用がその中に含まれるものとして計上され、また、パンフレット中には、仮申込書も添付されていることが認められる。旅行に関する部分についてはJTBが手配旅行で引受けると記載されてはいたものの、現にそのようにはしていないのであって、パンフレットの設置行為が本件各運送サービスを含む本件各バイクツアーについての旅行参加者を募集していると評価できることは明らかである」。
(5) 1号の「自己の計算において」について
「被告人らは,自らの判断で本件各運送サービスに係る費用を含んでいる本件各バイクツアーについての参加料金を設定しており,その全部の経済的効果を被告会社に帰属させているのであるから,本件各運送サービスの提供に係る部分についても自己の計算によるものであるといえる旨を説示する原判決の判断は相当である」。
(6) 職権判断による差戻し
「審理経過に鑑みると、主観的要件である「営利目的」についても当然争う意向である蓋然性が高いから、この点を当事者に釈明し、営利目的の有無について当事者に主張、立証を尽くさせる機会を設けるべきであったにもかかわらず、これを怠り、審理不尽のまま、営利目的を認定したものと解される原審の審理には訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるので、原判決は破棄を免れず、当審においてその点に関する事実取調をすることは許されないから、原審に差し戻す」と判示しました。
つまり、営利性について審理を尽くしてないので、今一度、事実関係を確かめた方がいいというものです。
3 差戻し後控訴審判決のポイント(営利性)
本件は前項(6)に示したように松山簡裁に差戻しとなり、さらに控訴されているので、差戻し後の控訴審判決を取り上げます。ポイントは下記のとおり営利性にかかわる部分となります。
「イベント部分が営利目的による活動の場合には、旅行代金部分の削減は営利活動に充てる部分を増やすことになるから、a社〔引用者補足、JTBのこと〕との本件各契約の交渉過程で旅行代金部分を削減しようとした被告人両名には、本件各ツアーに係る旅行計画の作成から本件各契約の締結に至る旅行業該当行為(旅行業法2条1項1号)を行うにつき、営利の目的があったといえる(削減分をイベント部分に充てずに被告会社に利益として帰属させることも考えられるが、現実の収支に照らし、ここでは除外して考える)」。
つまり、上図でいう航空券代や宿泊費などを値引いた分をラリー参加費用として流用することが営利につながるとみているのです。
なお、判決では次のように、営利を否定する例示もあります。
「例えば、非営利団体が、海外での植林をするボランティアを募集し、応募者から旅行代金部分と現地での植林ボランティア活動に伴う費用部分を包括料金で徴収し、旅行について旅行業該当行為を行った場合、旅行代金部分を削減して、その分を植林費用に充て、植える木の本数を増やしたとしても、旅行業該当行為に営利の目的があったとはいえない」。
この例示と比較して図示すると次のようになります。

上のラリーに関する部分が営利行為なので、旅行代金の値引き分(黄色部分)をそちらに充てるということは、営利活動に流用されるので、結論として営利目的が認定されるということですね。おそらく、値引きした分をそのまま客に対して値引きすれば、営利としては認定されなかったのだろうと思います(微妙ですが)。例示されている植林の事例は、植林の活動自体が非営利活動なので、そちらに流用されても営利性を帯びないと判断されるのでしょう。
4 審級関係、出典等
(一審)松山簡判平成23年11月24日 被告人有罪
Westlaw Japan 2011wljpca11246007
(控訴審)高松高判平成25年1月29日 原審の審理不尽につき一部差戻し
高等裁判所刑事裁判速報集平成25年版259頁
LEX/DB25549299
Westlaw Japan 2013WLJPCA01296002
(上告審) 最判平成25年 4月 4日 憲法違反の争点につき棄却
Westlaw Japan 2016WLJPCA02266005
(差戻審)松山簡判平成27年 3月24日 被告人有罪
Westlaw Japan 2015WLJPCA03246013
(差戻後控訴審)高松高判平成27年10月 8日 棄却
高等裁判所刑事裁判速報集平成27年版335頁
Westlaw Japan 2013WLJPCA01296002
(差戻後上告審) 最判平成28年2月26日 棄却
Westlaw Japan 2016WLJPCA02266005
5 参考文献
蔡芸琦「旅行業法の無登録営業罪の成立範囲」『法律時報』86巻9号132頁
※高松高判平成25年1月29日に関するもの