【要点】不正ではなく、乗った停留所がわかれば、その停留所からの運賃です。
現業の運転手さんによる間違った認識があまりに多いようなので、注意喚起のため記事にしました。もちろん、きちんとタッチするよう啓発するのは良いのですが、タッチし忘れが、そのまま不正乗車ではないのです。不正乗車でもないのに、始発停留所から3倍も徴収したりすると詐欺行為にもなりかねませんので、認識を改めたほうがいいと思います。カスハラなどは全く擁護する気はありませんが、運転手さんも、旅客のうっかりを不正と決めつけないような姿勢でお願いします。
まずは全体構造から。ポイントだけを知りたい方はこの図を理解しておけば十分です。

上図の通り、まず不正乗車という「害意」が認定できるかが分かれ目です。そのうえで、乗った停留所が特定できるのかどうかです。例えば、同じ停留所で乗った客に証言してもらう、当該停留所付近の特徴や事前の行動を尋ねる、ドライブレコーダーで確認してもらうなどの方法があると思います。ネット上で確認された事例では、ドライブレコーダーで乗車停留所が確認できたにもかかわらず、始発停留所から徴収しているような対応もありました。これでは不正な取り扱いになってしまいます。法的には不当利得にあたるので、とりすぎた分について旅客はバス会社に請求が可能です。
では、みんな大好き西鉄バスの規則を使って規定の詳細をみていきましょう。バスの約款は認可対象となっていて、通常は国土交通省のモデル約款を用いるので、どの会社もおおむね同じです。個人的に信頼している西鉄バスなので例にするだけです。
1 規則の全体構造
おおむねどこの会社も同じですが、紙の乗車券を前提とした一般乗合旅客自動車運送約款(以下「約款」と略します。)があり、その後に整理券を使った方式の規定が挿入されて、さらにICカードに関する規則(以下「IC規則」と略します。)が別建てで作られた経緯がありますので、ICカードで乗車する場合はIC規則が優先されます。

そして、IC規則を確認すると、不正乗車の規定はあるのですが、不正乗車ではない、うっかりタッチし忘れた場合の規定がないことに気づきます。
2 タッチし忘れの適用規定
では、不正ではないタッチし忘れは、どの規定が用いられるのか確認します。
まず、ICカードで利用する場合は、乗車時にタッチして、降車時にもタッチすることが必要で(IC規則10条)、降車する際に運賃が減額される仕組みです(IC規則23条1項)。しかし、タッチし忘れの場合は、旅客が乗車時の義務を果たしていないので、「上記運賃支払い以外の場合は乗務員に申告し、乗務員が金額を設定した後に内容に応じた運賃を減額することができる」(IC規則23条2項)との規定のもと、乗務員に申告することになります。
ここで不正乗車として認定された場合は、IC規則26条によってICカードが無効、回収されて、IC規則27条によって増運賃を徴収される場合があります。不正乗車とは、正規の運賃より安く乗るなどの利得詐欺に相当する事例です。害意が必要なのです。悪質な場合は、別に詐欺罪が成立します。
不正乗車ではなく、単なるタッチし忘れについては、ICの規則に規定がないので、約款にさかのぼります(IC規則3条)。すると、ICカードを利用する場合とまったく同じ機能をもつ整理券の条文が見つかります。これを類推適用することになります。
【一般乗合旅客自動車運送事業運送約款】
(整理券の所持)
第 21 条 当社は、ワンマン運行の系統において運賃及び料金収受の都合上車内で整理券を発行することがあります。
2 旅客は、IC カードにて運賃を支払うまたは IC 定期乗車券を使用する場合を除き、車内で発行される整理券を所持し、下車する際にはその整理券を当社の係員に引き渡さなければなりません。
3 第1項に規定する整理券を所持しない場合、当社の係員が旅客の乗車した停留所を知ることができないときは、当該運行系統又は区間の始発の停留所から乗車したものとみなします。
これを読むとわかるように、「当社の係員が旅客の乗車した停留所を知ることができないとき」に初めて始発の停留所からの運賃を徴収することとなるのです。
以上の手順を端折って論じている現業の方が多すぎます。
3 それでも不正乗車になる場合
なお、約款28条にて、「当社の係員が第 14 条の規定により乗車券類の提示を求めたときに有効な乗車券類を提示せず、かつ、当社の係員の請求に応じて運賃及び料金の支払いをしなかったとき」とあるので、ドライブレコーダーの記録などで乗車停留所が判明したにもかかわらず、そこからの運賃を支払おうとしない場合は、さすがに不正乗車となります。
なお、不正乗車した場合の「割増運賃」に関して、西鉄バスの規則は明確な計算根拠を規定してないので、3倍の運賃をとれない可能性があります(商慣習として認められる余地ももちろんあります。)。修正することをお勧めします。