旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 サンライズ運転休止で新幹線に乗車 熱海・東京間の差額運賃の払戻し

【要点】 他経路乗車扱いとなり差額払い戻し可能。ただし東海の窓口に行った方が無難。

 

 2026年5月10日、事故による遅延でサンライズ瀬戸・出雲が新大阪で運転休止となり、乗客は代替として新幹線に乗車できるような措置がなされました。その際、次のような内容の業務連絡書が発行されていますので、これに沿って分析します。

 1 経路について

 論点に入る前に前提事情をお伝えします。

 新幹線と並行在来線については、旅規の16条の2によって同一線路とみなしますので、もともと東海道本線経由の乗車券であれば、そのまま熱海まで東海道新幹線に乗車することは可能です。今回は熱海・東京間が別の線路であることから、取り扱いが複雑になるのです。今年の3/14から別線路として取り扱うことになっているので、このような問題が生じています。

 

2 急乗承について

 業務連絡書の中に急乗承という用語が使われています。運行休止の場合などに後続の特急に乗れたうえに、特急料金の払戻しまで受けられてしまうという大盤振る舞いを受けられる制度です(旅規289条)。これはJRの裁量で認められるのではなく、旅客の権利としておかれているので、JRは断ることができません。ただ、この制度の利用で「のぞみ」への乗車は認められていません。

 今回の場合、「東海道新幹線の乗車を特認する」という文言とともに「のぞみ」が明記されているので、「のぞみ」についてだけ乗車が特認されたと読むことが可能です。つまり、「ひかり」や「こだま」であれば、特認などは関係なく、旅客が乗りたいといえば、特急券を発行しなければなりませんが、「のぞみ」はJRの特別な配慮により乗ることができたことになります。業務連絡書には「ひかり」も明記されていますが、書面を一枚にする都合上、一緒に書いただけでしょう。

 しかし、特認ではない、通常の急乗承の場合、熱海・東京間は線路が別なので、熱海までしか急乗承としてしか認められない可能性があります。289条1項柱書をよく読むと、「同一方向」とあるだけだからです。方向は同一であっても、経路が違っていたら分岐駅、すなわち熱海までと考えるのが制度趣旨に適合します。したがって、熱海・東京間は「ひかり」であっても通常の急乗承では乗ることができず、特認の急乗承で新幹線に乗せてもらえたとも評価可能です。「方向」とあるだけなので、旅客優位とし、一部経路が別であっても目的地が同じなら同一と拡張解釈する余地もあります。

 なお、急乗承であれば特急料金は全額払い戻しですが、他経路乗車による特急利用だと差額払い戻しになります。

 

3 寝台料金の払戻しについて

 今回は列車が運行不能となっているので旅規282条1項1号イに該当し、旅規282条の2第4号の「使用開始後6時までの間に一部区間使用できなくなった場合」にも該当するので、寝台料金全額が払い戻し対象です。ここは、特認は関係ないです。

 

4 他経路乗車について

 本記事のメインの論点である、乗車券の差額の払戻しについてです。これが難しい。とりあえず上図の通り、新大阪・熱海間は東海道本線と東海道新幹線は同一線路なので、特に問題は起きません。手持ちの乗車券でそのまま乗車可能です。

 もちろん熱海で新幹線をおりて東海道本線に乗っていくのであれば、手持ちの乗車券で乗車可能です。特急「踊り子」に乗っていきたいのであれば、昼までまって、急乗承の申告をして特急券をもらって乗っていけばいいのです。

 問題は、熱海から先が新幹線なので、運賃が110円安いことです。これを他経路乗車として認定すれば、差額の110円は返ってくるのですが、論理的にはどう考えたらよいのでしょうか。次の項目で詳述します。

 

 (1) 他経路乗車の条文の意味

 該当する条文から見てまいります。長いので赤色だけ読んでください。

【旅客営業規則】

(列車の運行不能・遅延等の場合の取扱方)
第282条
旅客は、旅行開始後又は使用開始後に、次の各号の1に該当する事由が発生した場合には、事故発生前に購入した乗車券類について、当該各号の1に定めるいずれかの取扱いを選択のうえ請求することができる。ただし、定期乗車券及び普通回数乗車券を使用する旅客は、第284条に規定する無賃送還(定期乗車券による無賃送還を除く。)、第285条に規定する他経路乗車又は第288条に規定する有効期間の延長若しくは旅客運賃の払いもどしの取扱いに限って請求することができる。


(1)列車が運行不能となったとき
イ 第282条の2に規定する旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ロ 第283条に規定する有効期間の延長
ハ 第284条に規定する無賃送還並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ニ 第285条に規定する他経路乗車並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ホ 第287条に規定する不通区間の別途旅行並びに旅客運賃及び料金の払いもどし
ヘ 第288条に規定する定期乗車券若しくは普通回数乗車券の有効期間の延長又は旅客運賃の払いもどし

 (2項および3項は略)

 

(他経路乗車の取扱方)
第285条
第282条第1項の規定による他経路乗車の取扱いは、次の各号の定めるところによる。
(1)旅客は、その乗車券に表示された着駅と同一目的地(不通区間以遠の駅において途中下車を予定していた場合は、その駅を含む。)に至る他の最短経路による乗車をすることができる。ただし、定期乗車券又は普通回数乗車券を使用する旅客は、他の経路による乗車中に途中下車することができない。
(2)旅客は、次に該当する場合に限って、他の経路を急行列車又は特別車両によって乗車することができる。ただし、のぞみ号等、グランクラス、プレミアムグリーン及びスーペリアグリーンにあっては当社が特に認めた場合に限る。
イ 急行列車に乗車した旅客が、列車が運行不能のため、他の経路を急行列車に乗車する場合。ただし、普通急行列車に乗車した旅客は、特別急行列車に乗車することはできない。
ロ 特別車両に乗車した旅客が、列車が運行不能のため、他の経路を特別車両により乗車する場合。この場合、特別車両に乗車できなかったときは、第290条の2の規定により払いもどしの取扱いを受けるものとする。


2
前項の取扱いをする場合は、既に収受した旅客運賃及び料金と実際乗車した区間の普通旅客運賃及び料金とを比較して、過剰額は払いもどしをするものとし、不足額は収受しない。この場合、原乗車券が割引乗車券であるときは、割引条件のいかんにかかわらず、実際乗車した区間に対する普通旅客運賃をその乗車券に適用した割引率による割引の旅客運賃によって計算する。

 (3項および4項は略)

 

 関係する部分を抜き出してみます。

 ◆「その乗車券に表示された着駅と同一目的地(不通区間以遠の駅において途中下車を予定していた場合は、その駅を含む。)

 →東京都区内着になっていた場合は新大阪→東京都区内までを意味します。熱海で途中下車する予定であれば、熱海までを意味します。ここを間違えてはいけません。新大阪で当該事案が生じ、途中下車する予定がないのであれば、他経路の区間は目的地である東京都区内となります。東京を経由して金沢まで行く乗車券で、東京に寄るのをあきらめて金沢にいくならば、新大阪・金沢間(東海、湖西、新幹線経由)が他経路となります。支障が出ている実際の区間に限定されるわけではありません。どこに行く予定であるか(最終目的地あるいは途中下車駅)という旅客の意思によって決まるのであって、JRが好きに決められるわけではないのです。券面情報と旅客の途中下車の意思で区間が決まります。

 今回の場合、新大阪以遠のサンライズの運行区間で支障があるので、途中までの乗車券であるとか、途中下車を予定しているなどの事情がない限り、新大阪・東京間が本条の対象区間となります。

 

 ◆「他の最短経路

 →今回の場合は、東海道新幹線と東海道線の両方が該当します。どちらも同じ営業キロなのでどちらも最短経路と考えられますが、熱海・東京間は別の線路なので、二手に分かれます。熱海までは旅客の好きなように乗ればいいのですが、熱海から先が議論となります。

 なお、この「最短」ですが基準規程によって「順路」(基準規程360条1項2号)と考えられる経路も認められる余地があります(下記のリンク参照)。

 

 (2) 経路の選択権はJRにあるのか?

 さて、ここで、唐突ではありますが、東海道本線経由と東海道新幹線経由を選択債権と考えて、旅規にも、鉄道運輸規程にも、鉄道営業法にも、商法にも規定がないので、民法まで遡ってみます。つまり、旅客の運送請求債権としては、東海道本線も東海道新幹線もありうる選択債権と捉えるのです。

【民法】

 (選択債権における選択権の帰属)
第406条 債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。

 債務者はJRなので、選択権はJRにあるかもしれません。そうなると、JRが、東海道本線しか乗せないというのであれば、他経路乗車としては東海道新幹線は認めないという結果も出てきそうです。上記の場合は特認なので、特認ではない場合は東海道新幹線への乗車を断ることができそうです。

 もういちど旅規の条文を読んでみます。「他の最短経路による乗車をすることができる」とあります。この文言からは、選択権を旅客に委ねている理解するのが自然です。ということは、旅客が新幹線で行きたいといえば、JRは断ることができないのです。断るとすれば、のぞみには乗れないということだけです。

 したがって、上記の特認の意味は「のぞみに乗ってよい」という意味だけしか持たないこととなり、それ以外は旅客の通常の権利行使ということになります

 

 (3) 他経路乗車の申告の有無

 他経路乗車は、旅客の権利なのですが、旅客が勝手にできるものでありません。そもそも運送契約にしても、営業規則にしても、契約外の経路に勝手に乗ってもいいのは区間外乗車などの明文があるときだけです。駅員なり、車掌なりに事前に申告が必要です(ワンマンの場合は運転士)。基準規程360条もそれを予定した規定になっています。今回の場合、旅客がその手続きを怠っているのではないかとの疑念が生じます。しかし、問題ありません。業務連絡書で新幹線に乗車できる旨が明記されているので、JRが黙示の承諾をしていると認められます

 

 (4) 浮いた110円はどこに?

 さらに、仮に差額の返還をしないとします。そうなると、受け取ったJR東日本は110円をどうするのでしょうか。客を乗せてないJR東日本が受け取る理由はありませんし、JR東海が受け取る理由もありません。JR東日本に行き場のない110円の不当利得が生じており、民法上も返還請求の対象となります。やはり払い戻さないと、変です。

 

 (5) のぞみに乗せるかわりに差額払い戻しなし?

 「のぞみ」に乗って早く行けるのであるから、110円は戻せないという利益衡量もあり得るようにも見えます。しかし、運賃体系と料金体系が異なることはJRもよくわかっているはずです。仮にそうするのであれば、旅客に確認をとってからでないと、この特約は無効です。熱海より先、新幹線に乗ると、110円は戻せないと説明し、承諾を得る必要があります。業務連絡書からは黙示だとしてもその意図は読み取れません。

 仮に業務連絡書に明記したとしても消費者契約法10条により無効となる可能性もあります。

 

 よって、どう解釈しても差額110円を払い戻すという結果しか出てきません。

 今回、X上の書き込みにおいて、新宿駅では断られたが、東京駅(JR東海)では払い戻してもらえたという情報を得ております。新宿駅にあっては、今後、改善されることを望みます。

 

 ※慎重に精査して書いたつもりです。本件について、ご意見があれば、ぜひお寄せください。

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