特定都区市内を乗車券に表記する場合は、通常、「東京都区内」「東京山手線内」などとしますが、表記の仕方には様々な歴史的な事情が隠れています。

これは広島市内の事例で正確に表記された乗車券です。海田市(かいたいち)は、広島市ではなく、安芸郡海田町で、向洋(むかいなだ)は安芸郡府中町なので、わかりやすいよう特記しています。

こちらは記事まで使って丁寧に記入されています。川崎は川崎市ですし、鶴見線には川崎市の駅もあるので、わかりやすいようにしているのです。車掌の発券なので、車内で立ちながら書いていると思うのですが、ご苦労様な乗車券です。

現在の広島市内の表記はこれだけなので、一部、簡略化された状態ですね。
さて、旅規を開くと、略し方にも規定があります。本記事は、この簡略表記の由来を探ろうという話です。
【旅客営業規則】
第187条
乗車券類の駅名及び旅客運賃・料金の表示方は、次のとおりとする。※1号~2号略
(3)第86条及び第87条の規定により旅客運賃を計算する場合の乗車券の駅名は、次の例により表示する。ただし、団体乗車券及び貸切乗車券の行程・料金欄の発駅及び着駅については、実際に乗降する駅名を表示する。
(例)第86条の場合 (和文)東京都区内 (英文)略
※「横浜市内・川崎・鶴見線内」~「山手線内」の例示は略
(4)前号本文の規定による駅名の表示は、特別補充券等にあっては、「都区内」又は「赤羽」の例により簡記し、又は略図をもって表示することがある。
ここからは極端に簡略表記された事例です。
(1) 都区内の事例

こちらは昭和3年の乗車券ですが、この時代はそもそも単駅指定です。昭和14年に特定市内制度が始まりました(当時は「東京市内」)。

昭和31年の硬券の補充片道乗車券です。この様式は、昭和40年代あたりで消えました。
この事例は、東京都区内から中央東線、小海線、信越本線、高崎線、東北本線と一周する乗車券です。本来、発駅は上野ではなくて、東京都区内であるはずなのに、なぜか簡略表記されています。この乗車券は補充券で、100キロまでの乗車券として発売する場合の発駅表記は上野となるので、上野と東京都区内の両方に使えるようになっているのです。100キロまでの乗車券として発行する場合は、下車禁止の左の線で切断しました(旧規則(S33年版確認)191条備考参照)。
したがって、このような乗車券を認めるために上記規定のような簡略表記がスタートしたのではないかと推測されます。

車掌の売っていた車内補充券です。左上を見てください。

横浜市内は正確に表記されていますが、東京都区内は「都区内」と簡略化されています。都区内は東京都区内と一般旅客でもすぐわかりますが、横浜市内は、川崎と鶴見線内まで有効であるという情報が不足するので、あえて正式表記をしているわけです。

むかしの手書きの車内補充券の事例です。車掌が発行する場合は、とにかく手早く済ませる必要があるので、簡略表記がよく使われていました。

団体乗車券で分乗する際に用いる団体旅客乗車票です。「都区内」と簡略表記になっています。ただ、ゴム印で、しかも空白付きで均等割り付けにするなら、正式な東京都区内とすべきでしょう。
2 山手線内の事例

これは券面がごちゃごちゃしているので、簡略表記が適切ですね。
3 東京電環の事例

通常はこちらの「東京電環」となります。今でいうところの山手線内です。正確に東京電車環状線内としてもよさそうですが。
4 電環の事例

簡略表記し「電環」となっています。こちらも手書きではないのだから、正確に表記したらよいと思うんですけどね。
5 略図の事例

昭和23年の物です。東京電環区間が地図になってます。これはある意味親切ですね。

団体旅客乗車票です。東京都区内が地図になっています。

こちらは山手線内です。
ということで、もともと車内補充券を発行する際にできるだけ手間を減らすために始まったと思っていたのですが、どうもそうではなく出札補充券に由来するようでした。