旅と鉄道の美学

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【営業規則系】 列車が早発!賠償請求できるのか?

 【要点】約款に早発の規定なし/民法で判断/賠償請求可能/非採時駅でもありうる

 

 秋葉原駅で列車の早発が明らかになりました。車掌、運転士とも発車時刻を確認せずに4分早く発車してしまったというものです。しかも、早朝の4:54発の列車であり、これを逃すと、次は5:21発で、30分弱遅れるという状況でした。朝の5時前で200人乗れないというのはすごいですね。

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 このような事態になった場合、旅客としては鉄道会社にどのようなことが言えるのでしょうか。JRを例にして論じてみたいと思います。民鉄各社にも早発に関する規定はないので、同様に考えることができるでしょう。

 (JR東日本HPより 秋葉原駅総武線時刻表)

 

1 営業上の早発事故

 ずばりの規定は、次のように鉄道営業法から委任された鉄道運輸規程にあります(カタカナをひらがなに変更した。)。 

鉄道運輸規程

 第22条

 鉄道は時刻表に指示したる列車を其の時刻前に出発せしむることを得ず

 鉄道は天災事変其の他已むことを得ざる事由ある場合又は公益上の必要ある場合を除くの外時刻表に指示したる列車の運転を休止することを得ず

 鉄道に社会的使命が課されていることが良くわかる条文です。この規定の名宛人は鉄道会社です。遅延の場合に比べて早発はかなり厳格に規制されていることがわかります。もっとも、この規定からは、保安上の事故ではなく、営業上の事故といえます。

 この規定は鉄道会社と旅客の間に直接適用されるわけではないのですが、旅客が鉄道に対して、早発はしないだろうという大きな期待を抱かせる理由にはなりそうです。あるいは早発禁止という社会通念を後押しする規定にはなるでしょう。

 

2 定時運行は運送契約に含まれるのか

 今回は早発という稀有な例ですが、延発、延着も含めて定時運行がそもそも契約に含まれるのか(債務の本旨たりうるのか)という問題があります。ここで、参考として、飯田線伊那2号事件の地裁判決を確認してみます。

 

名古屋地方裁判所判決 昭和51年11月30日】

 今日の鉄道輸送が持つ社会的な機能に鑑みると、列車の運行時刻や駅間の所要時間は、運賃等と並んで、旅客運送契約の重要な要素をなすものと解するのが相当であって、これを運送条件に属しないものとすることはできない。もとより分秒を違えず列車を運行させることは技術的にも不可能であり、そこまでが契約内容となるとすることはできないにしても、運送人がその責に帰すべき事由により一般に容認すべき相当な限度を越えて列車を延着させた場合には、運送契約上の債務不履行を構成するものというべきである。

 一般人の認識としても、原則として定時運行は運送契約の重要な要素とみることには同意できると思います。今回の総武緩行線のような本数の多い区間であれば、特定の時間の列車を狙って乗車する方は少ないでしょうけど、早朝5時という状況が加わったならば、伊那2号が走っていた飯田線などと同様に見ることもできます。

 したがって、路線や区間、時間帯によって定時の程度が異なるといえます。

 なお、旅客営業規則には、普通乗車券であっても遅延によって払い戻し可能な規定があるので(282条1項、282条の2)、定時運行が契約の重要な要素であるとJRが認識していることにつき推知可能です。

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3 延発の場合

 さて、延発の場合は、延着とともに旅客営業規則において賠償請求に関する規定があります。

【旅客営業規則】

(運行不能・遅延等の場合のその他の請求)
 第290条の3
 旅客は、第282条、第289条、第290条、第290条の2又は第307条第4項に規定する事由が発生した場合は、その原因が当社の責に帰すべき事由によるものであるか否かにかかわらず、第282条から前条又は第307条第4項に定める取扱いに限って請求することができる。

 2 旅客は、列車の運行不能若しくは遅延が発生した場合、車両の故障等又は第307条第2項の規定による手回り品の内容の点検若しくは同条第3項の規定による協力の求めに応じたことにより列車に乗車することができない場合は、前項に規定するものを除いて、その原因が当社の責に帰すべき事由によるものであるか否かにかかわらず、一切の請求をすることはできない。

 あれこれ書いてあるのですが、遅延した場合はJRに原因がなくても請求できるという有利規定(1項)と、請求ができないという免責規定(2項)の二つの意味を持ちます。ただし、2項の場合でも、重過失があれば別です。

 したがって、乗務員のうっかりミスで遅延をしても、上記に適合しなければ請求できませんし、払い戻し以上の請求はできないのです。

 

4 早発の場合

 今回は延発ではなく、早発です。旅客営業規則には何も規定がありません。そもそも、鉄道会社としてはあり得ない事態なので、明記されてないのです。

 そうなると、商法にも規定がないので、民法の出番です。

 

(2025/11/29 11:37追記)
 旅客営業規則282条1項3号に「車両の故障その他旅客の責任とならない事由によって、当該列車に乗車することができないとき」は、払戻し(無手数料)と有効期間の延長ができるとあります。そうなると、上記の290条の3と併せ読むことで、払戻しか有効期間の延長しか選択できないとも言えます。しかし、制度趣旨からみて早発という重大事案に対する免責条項とは見るべきではないと考えます。信義則上、若しくは権利の濫用として否定すべきと考えます。仮に適用されて、早発であっても払戻しレベルにとどまるとするなら、重過失である早発は除外されるでしょう。というのも、消費者契約法8条1項2号により故意・重過失による事業者の損害賠償責任を免責する規定は、その限りで無効となるので、旅規290条の3は重過失の場合には除かれるからです。※早発が重過失なのかは、若干、議論を必要とするところですが。。。
(追記ここまで)

 

 (1)損害賠償請求

 前述の通り、早発しないことが契約上の重要な要素と考えるのであれば、早発したことは債務不履行となります。ただし、乗務員や指令員などに過失がないといけません。今回の場合は運転士と車掌のうっかりミスなので、過失は認定できます(軽過失で十分です。)。

 次は損害と因果関係です。

 ありうる事例としては、早発して次の列車に乗ったのでは、バスに乗り遅れて入試に間に合わないので、駅からタクシーで向かった場合の差額分です。因果関係は肯定されるとして、通常損害といえるのかです。通常、列車に乗るときには、特定の用事があって時間を決めて乗るものなので、社会通念上、その用事に間に合わせるために出捐した費用は含まれると考えていいでしょう。なので、バス代とタクシー代の差額は賠償請求可能です。

 

 (2)代替手段の請求

 例えば、特急で行けば目的地に予定していた時間に着ける場合は、追完請求として追加費用なく特急に乗車できるよう請求可能です(民法562条は559条をもって他の有償契約に準用される。)。もっとも、切羽詰まった状況でこのような交渉はできないと思いますので、とりあえず金を払って特急に乗り、その分をあとで損害賠償として請求したらいいのです。

togetter.com

 

 (3)解除

 こちらも可能な場合があります(民法542条1項4号)。特定の日時に履行をしなければ契約をした目的を達することができないとみられるからです。延発の場合ではないので、旅規の適用がなく、無手数料の払戻しが可能です。

 

5 ICカード乗車券とフリーきっぷ

 これを使っていた場合は、運送区間が不確定なので、社会通念上、損害との因果関係が認定しにくいように見えます。しかし、これとて、乗車区間はJRとの間で不明確であっても、何らかの特定の用事は社会通念上、観念できるので、4(1)と同様の考え方でよいでしょう。

 

6 非採時駅での早発

 鉄道の運転取り扱い上、時刻を確認する採時駅と確認しない非採時駅があり、非採時駅の場合は、早発であっても問題ないという主張が一部にありますが、論理が飛躍しています。この作業は運転取扱い上のことなので、旅客との関係でそのままあてはまるわけではありません。下記の記事で書いたように運転業務と旅客業務は切り分ける必要があります。

 旅客業務にかかわる点につき、JRは公式で早発の可能性を注意喚起しています。これは約款に準ずる契約上の条項とみていいでしょう。

jreastfaq.jreast.co.jp

 この告知に基づくと、「標準時分」として時刻表に表記がある場合、旅客運送契約上、定刻とのずれを取引上の社会通念(民法415条1項但書)からどの程度許容されるのかという観点で見ることになります。通常、多くの非採時駅が標準時分を採用していると思うのですが、考え方としては、時刻表に「標準時分」と表記してある場合に若干の早発や延発が契約上、許容されるということです。逆に採時駅であっても標準時分と明記されていれば、多少の早発、延発は許されることになります。

 そこでどの程度の揺らぎが許容されるのか。

 多くの鉄道会社が5分以上の遅れで遅延証明書を発行していることからすれば、5分以上の早発は標準時分制であっても、法的に違法性を帯びると考えることもできます。しかし通常の遅れの範囲と同じというのも解せません。そうなると、1~4分の範囲となってきます。とりあえず標準時分より4分の早発は確実に違法ということができそうです。1~3分はどうしましょうか。識者の意見がほしいところです。

 

(2025/11/29 15:15追記)
 標準時分制を採用している背景として、運転調整、旅客流動などの業務上の都合が理由として挙げられます。これと鉄道運輸規程のもとめる定時運行の要請をあわせて考えると、運用上の都合による時間のずれは柔軟に認められる一方で、その必要性がない場合は違法性を強く帯びることになります。仮に秋葉原駅が標準時分制を採用していたとしても、乗務員のミスによるずれは、標準時分のずれで予定されているような事由ではないので、明確に鉄道運輸規程にも反するし、契約違反ともいえるでしょう
(追記ここまで)

 

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