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【コラム】 富士山静岡空港の駐車場冠水事故における空港運営会社の責任

 当該事故で、空港の発表は次のようなものです。

www.mtfuji-shizuokaairport.jp

 「天災地変や不可抗力による損害については、免責事項となっておりますので誠に恐縮ながら、当空港からの補償は致しかねます」とありますが、本当にそうなのだろうかという疑問を提起したいと思って書いています。天災地変だから免責って、そう簡単なものではないですよ。

 ポイントとなるのは、管理規約の次の文言です。これに沿って、以下で検証していきます。

 

富士山静岡空港駐車場管理規約】 

第12条 免責
管理者は、駐車場内における車両、その付属装着物又は積載物の盗難、紛失又は毀損については、管理者の故意又は重過失による場合を除き一切責任を負いません。

 

管理者は、駐車場の利用者が、駐車場の他の利用者もしくはその他の人の行為又は駐車場内に存在する車両又はその付属装着物もしくは積載物等に起因して被った損害、その他駐車場内で発生した管理者の責に帰すべき事由によらない原因に起因して被った損害について責任を負いません。

 内容が少しややこしいのですが、前段と後段に分けて分析します。

 前段は、空港管理者に責任(故意・過失)がある場合の債務不履行責任や不法行為責任の免責事項とみます。過失には重過失と軽過失があるのですが、軽過失の場合は責任を負いませんということです。これは、消費者契約法8条2号および同4号を反映した文言でしょう。つまり空港に責任がある場合の処理規定です。

 なお、前段の規定は「駐車場内における車両、その付属装着物又は積載物」となっているので、それ以外の被害であれば軽過失によって空港管理者が責任を負う可能性があります。たとえば、地面が陥没していて躓いていてケガをした場合などです。その点では少し出来が悪い条文です。

 

 後段は、空港に責任がない場合です。いわゆる危険負担です。利用者自身に責任があった場合は、もちろん空港に責任はないです。これは言わなくてもわかりますよね。利用者にも空港にも責任がない場合にどうなるのかということを書いています。隣の車にドアをあてられたとか、サルが石を投げてきてガラスが割れたとか、ヒョウでボンネットにキズが付いたなどです。

 

 そうなると、今回の大雨も天災なので、免責されるのではないかと一寸思うところですが、そう簡単ではないです。ヒョウであれば、明らかに天災なので、関係ありませんが、雨の場合は雨が直接、車に被害を及ぼしたわけではありません。この因果関係が重要です。比べてみます。

 ●落ヒョウ → 車にキズ

 ●大雨 → 駐車場兼調整池に水がたまる → 避難間に合わず → 車水没

 因果関係に間があるわけです。つまり、直接の因果関係は大雨ではなく、駐車場に雨水がたまって、避難できなかったことです。ここに空港管理者の過失が関与していれば、後段ではなく、前段で処理され、重過失があれば、当該車両の損害賠償責任を負うことになります

 

 ということで、空港管理者に重過失があるのかを検証してきます。

 

1 管理規約がみやすいところに掲示されていたのか

 その前に、この管理規約はネット上では確認できますが、現場に文言まで含めて掲示されているのかが問題となります。鉄道などの場合は、ネット上に表示するだけで公表とされているので、約款として組み込まれますが、駐車場契約の場合はそうはいきません(民法548条の2第1項2号)。契約時までに利用者の目に入るような場所に掲示されているなどが必要です。そうでないと、この規約自体が意味をなしません。

 そうなると、先の規約12条の前段が意味を持たなくなり、民法債務不履行責任や不法行為責任で処理されるので、軽過失であっても車両に対する損害賠償責任を負うことになります。

 

2 空港管理会社の責任

 重過失の検討に入る前に、そもそも駐車場管理者の義務を明確にしておきます。

 専門用語で安全配慮義務というのがあります。民法1条2項の信義則から導かれる原則で、特別な契約関係にはいった者が相手の生命、身体や財産などの安全に配慮しなければならず、守られない場合は債務不履行責任を負うという付随義務です。

 これを駐車場に当てはめると、下記のような行為を行う必要があります。

 ●大雨の時は冠水するリスクがあることを十分に伝える。

 ●大雨になりやすい日時がわかっていれば事前に伝える。

 ●館内放送で呼びかける。

 ●日頃からメンテナンスしてたまりにくいように努める。

 こういったことができていたかなどです。

 

3 調整池としての問題

 この駐車場は集中豪雨などのさいに河川に流れ込む流用を調整するための調整池となっているようです。専門用語だと、「雨水貯留浸透施設」(特定都市河川浸水被害対策法)で、当該施設である旨の標識が必要となります(同法38)。

 ただし、この標識は、近隣住民などに防災の役割を周知することであって、駐車場利用者への注意喚起とは違いますので、この標識があるからといって駐車場管理者の責任が免責されるわけではありません。ネット上の情報でこの駐車場が調整池を兼ねたものであることは確認しましたが、注意喚起看板は分かりやすい内容で、複数個所にあるなどして、衆知するのに十分な告知になっているのか検証が必要です。

 

4 排水機能の問題

 調整池して機能しているとしても、メンテナンス不足で十分に機能を発揮しておらず、予想以上にたまってしまったなどがあれば重過失になる可能性もあります

 なお、もしメンテナンス不足による欠陥も影響しているのであれば、土地工作物責任民法717条)という重い責任がかかってきます。空港管理者の立証のハードルがあがり、さらには所有者である静岡県が無過失でも賠償責任を負うことになります。

 

5 空港の駐車場という特殊性

 コインパーキングやショッピングモールの駐車場などは時間で使用することが想定されていますが、空港の場合は、日単位で使うことが予測されます。そうなると、それに応じて利用者に対して十分な告知をしているかがさらに問題となります。ショッピングモール以上の対応が必要です。入口に注意勧告看板があるとか、駐車券に明記されているなどの措置が必要です。

 

8 場屋営業となるか

 この論点はX上で商法研究者の方からいただいた着眼点です。

【商法】

(場屋営業者の責任)
第596条 旅館、飲食店、浴場その他の客の来集を目的とする場屋における取引をすることを業とする者(以下この節において「場屋営業者」という。)は、客から寄託を受けた物品の滅失又は損傷については、不可抗力によるものであったことを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることができない。


2 客が寄託していない物品であっても、場屋の中に携帯した物品が、場屋営業者が注意を怠ったことによって滅失し、又は損傷したときは、場屋営業者は、損害賠償の責任を負う。


3 客が場屋の中に携帯した物品につき責任を負わない旨を表示したときであっても、場屋営業者は、前2項の責任を免れることができない。

 

 場屋営業とは、「旅館、飲食店、浴場その他の客の来集を目的とする場屋における取引をすることを業とする者」(商法596条)とあり、空港がこれにあたるのではないか気になりますがちょっと難しいのではないかと思います。そこで人を集めて何かするわけではなく、飛行機に乗るための施設ですからね。旅客運送営業に付属した通過点としての施設ですし。

 

 仮にこれに該当しても、管理規約の次の文言で、寄託が否定されます。

富士山静岡空港駐車場管理規約】

第1条 利用スペースの提供
駐車場は、駐車するためのスペースを提供することを目的とするものであり、車両をお預かりするものではありません。 

 すると、2項の「客が寄託していない物品であっても、場屋の中に携帯した物品が、場屋営業者が注意を怠ったことによって滅失し、又は損傷したときは、場屋営業者は、損害賠償の責任を負う」の問題が出てきます。

 「場屋営業者が注意を怠ったこと」の要件を利用者側で立証する必要が出てきますので、結局、前項目まで述べてきたような空港の対応のミスを立証する必要が出てくるでしょう。ただし、軽過失での立証で済む可能性が高く、立証難易度が下がるかもしれません。

 

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 今回の件は多くの方が車両保険で対応すると思いますが、保険会社が空港に請求する可能性が高く、そこで訴訟になるのではないかとよんでいます。

 

www.estoppel.jp