25年3月15日よりJRの旅客営業規則の157条(選択乗車)に下記の条文(4項)が追加となりました。
4 全区間の営業キロが片道 100 キロメートルまでの区間に対する普通乗車券又は普通回数乗車券を使用して第1項第 23 号から第 28 号までの規定により乗車する旅客が、列車を乗り継ぐために下車を希望するときは、第 156 条ただし書第1号及び第4号の規定にかかわらず、次の各号に定めるところにより下車することができる。ただし、2枚以上の普通乗車券又は普通回数乗車券を併用して使用する場合を除く。
⑴ 第1項第 23 号から第 25 号までの規定により乗車する旅客は、富士駅で下車して出場した後に新富士駅で列車に乗り継いで、又は新富士駅で下車して出場した後に富士駅で列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、富士駅又は新富士駅発又は着となる普通乗車券又は普通回数乗車券を使用する場合を除く。
⑵ 第1項第 26 号から第 28 号までの規定により乗車する旅客は、岐阜駅で下車して出場した後に岐阜羽島駅で列車に乗り継いで、又は岐阜羽島駅で下車して出場した後に岐阜駅で列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、岐阜駅又は岐阜羽島駅発又は着となる普通乗車券又は普通回数乗車券を使用する場合を除く。
要するに下図のような移動について、途中下車できないような普通乗車券や普通回数券を利用した場合も移動できるとする運用を明文化した規定です。
このような取り扱いは次の記事において運用の実態を取り上げていたところで、この実態が明文化されたことになります。同じような取り扱いはJR西日本、東日本と九州は不可としています。
【今回の条文新設の意味】
上記の過去記事のような実態なので、別に今回の新設をもって現場で何か変わるわけではありません。JR東海としては、運用上の取り扱いをわかりやすく旅規に明記したということで、定型約款や消費者契約の趣旨から明確性を確保している点で好感が持てます。つまり、JR東海においては、この条文があるから認められるわけではなく、もともと解釈上、認められるものをあえて明確にするために条項として入れ込んだということができます(確認規定)。
なお、JR東海に確認したところ、本条創設前後とも、富士、新富士、岐阜、岐阜羽島において選択乗車するために駅を出場することは「途中下車」という取り扱いとのことでした。なので、156条1号の但書にある次の条文を具体化し、指定した駅がこの4駅ということになります。
全区間の営業キロが片道100キロメートルまでの区間に対する普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅。ただし、列車の接続駅で、接続関係等の理由により、旅客が下車を希望する場合で、旅客鉄道会社が指定した駅に下車するときを除く。
では、条文新設後も運用上、このような取り扱いを禁止しているJR西日本、東日本と九州では、できないのでしょうか。形式的には本条を反対解釈して、明文がないからこそ、なお認められにくいという方向になりそうです。
しかし、微妙です。
もともと選択乗車は、旅客とJRともに区間変更の手間を省略することが趣旨です。今回の接続駅が離れていても乗り継ぎ可能な事案は、その副産物として出てきた反射的利益であり、契約に付随した保護されるべき債権者の利益と考えられるからです。したがって、JR西日本、東日本や九州のように、禁止する運用にしたいのであれば、4項とは別に5項を設けて明確に禁止する規定を置くべきでしょう。約款解釈において、不明確な場合は事業者不利に考えるのが基本です。今回のような不明確な場合において、反射的利益を考えうるのであれば、それを封じる規定を置く必要があります。
【途中下車なのか一時出場なのか】
JR東海の見解は途中下車の範疇にふくまれる特例と考えるものです。しかし、接続のために出場する場合は、一時出場として途中下車としては取り扱わない方法(基準規程145条)の方が適切なのでないかと感じるところです。
【運行不能時の取り扱い】
今回の新設条文における「下車」を途中下車ととらえるのであれば、運行不能などの払い戻しで注意が必要です。例えば、身延→富士→新富士→東京都区内の乗車券で、富士の改札を出たところで、新幹線線の運休に遭遇して身延に引き返したとします。この場合、富士で途中下車扱いになっているので、富士→東京都区内分しか戻ってきません。この点でも途中下車として取り扱うのは疑問が残るのです。