プロ向けの記事なので、だいぶかみごたえがありますよ。簡単にいうと、JRの路線でどちらのルートを通ってもよいという選択乗車区間で、途中下車前途無効の乗車券を使っていても、途中で別のルートに変更できるのか?です。
このまえ、岩徳線に乗るため、広島→新岩国・清流新岩国→西岩国→徳山と移動した際に、新岩国で一時出場したのですが、下記の乗車券を回収されてしまいました(この区間の制度との関係は下記を参照ください。)。
そのときの乗車券です。
最初は普通に途中下車印を押してもらって出してくれたので、選択乗車区間だからやはり一時出場として大丈夫なんだな~と思って改札を出ました。その後、記念スタンプを押していたら、助役さんに声をかけられて、前途無効なので回収させてくださいと言われてしまったわけです。仕方がないので、渡しましたが、助役さんの見解が間違っていることも想定して写真を残しておきました。その後、JR西日本のお客様センターに尋ねてみましたが、やはり助役さんと同じ見解で101キロ以上ないため、回収されてしまうという話でした。
そこで今回のような疑問を理論的に分析してみようと思ったわけです。
ちなみにこの乗車券ですが、防府までの乗り越しにして区間変更券を作成してもらったら、101キロ以上となるので、290円の損失で終わりましたね。そのときはそこまで頭が回らなかったです。
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まず、選択乗車の制度から。
例えば、熱海から東京に帰る際に、踊り子で帰ろうと思っていたけど、新幹線で帰りたくなった場合ですね。経由は違いますが、そのまま手持ちの乗車券で新幹線に乗ることができます。新幹線と東海道線を自由に選択して乗車可能です。
このように、券面の経路に関わらず、どちらを乗ってもよいですよという制度です。 全国各所に点在します。該当するエリアは旅客営業規則の157条を見てください。
次に、新幹線に乗ってきて、新横浜で降りて横浜に寄りたい場合です。これも遠くから来る場合は、意外と需要が多いと思います。このような場合は、新横浜から横浜までの乗車券を買うように促されて、横浜線に乗っていくわけです。「横浜線のりかえ」というゴム印が押されたと思います。
※予め横浜をまわることが決まっている場合は、大阪市内→新横浜→横浜→東京都区内で買った方がいいですよ。※2022.7.6 訂正 →横浜線と東海道線の接続駅は東神奈川なので、これは買えませんね。普通に大阪市内→横浜市内/横浜→東京で買うのが穏当です。
※新横浜から横浜になぜワープできるのかという選択乗車制の詳しい解説は別稿としますが、簡単に言うと、「小田原⇔新横浜」or「小田原⇔横浜」という一つ目の選択と、「新横浜⇔品川」or「横浜⇔品川」という二つ目の選択があるので、一つ目で小田原→新横浜を選択したら、二つ目で横浜→品川も選択できるということです。そうなると、論理的に考えて、新横浜から横浜にワープできるのです。
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さて、新横浜と横浜の間を横浜線ではなく、地下鉄で移動しても良いのか?大阪市内→東京都区内の乗車券であれば、途中下車可能なので、別に新横浜駅で普通に途中下車するだけですよね。
問題は、途中下車できないような101キロ未満の乗車券はどうなるのか?です。地下鉄に乗るには新横浜駅の改札を出ないといけないので、回収されてしまいそうです。確かに、新横浜と横浜間ではJR横浜線があるので、わざわざ改札をでることを許可する理由はなさそうです。
しかし、冒頭の新岩国と岩国の場合は、改札をでるしかありません。
JR東海に、岐阜と岐阜羽島間を名鉄(でなくてもいいけど)で移動するパターンで101キロ未満の乗車券の事例で尋ねてみると、可能との返答でした。
同様にJR東日本にも尋ねてみたら、不可とのことでした。
なんと、JR西日本・東日本 VS. JR東海という結果です。
では、どちらが正しいのか。理論的に解明していきましょう。
ポイントは、旅客営業規則156条と旅客営業取扱基準規程145条です。
(途中下車)
第 156 条 旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によって、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
(1) 全区間の営業キロが片道 100 キロメートルまでの区間に対する普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅。ただし、列車の接続駅で、接続関係等の理由により、旅客が下車を希望する場合で、旅客鉄道会社が指定した駅に下車するときを除く。
このように「旅客鉄道会社が指定した駅」とあり、新岩国と岩国、新横浜と横浜、岐阜と岐阜羽島を、それぞれ指定している駅と読むこともできそうです。そうであれば、会社によって判断が分かれることはあり得ますね。しかし、今回の事例は、下車を希望しているというわけではなく、選択乗車制で認められている範囲内でルート変更をしようとしたら改札の外に出ないといけなくなるという設備上の問題なので、下記の基準規程に準じて扱うべきと考えます。
(接続駅等で一時出場させる場合の取扱方)
第145条
接続駅で駅の設備、接続関係等によつて、直通乗車券を所持している旅客を一時出場させる場合は、途中下車の取扱いに準じて、乗車券に途中下車印を押さなければならない。途中下車を認めない乗車券を所持している旅客を一時出場させる場合もまた同様とする。
(中略)
(注)この条の規定により途中下車印又は特別下車印が押された乗車券を所持する旅客は、途中下車をした旅客としては扱わない。
この中で「接続関係等」とあります。物理的に改札外に出ざるを得ない場合を想定しています。 実務上、この規定は下記の記事内にあるように、三河安城、浜川崎で使われている一時出場が該当します。最近は無人駅も増えているので、無人駅で乗り換える場合もこの規程が活用されるわけです。
ということは、選択乗車区間を通る場合、別の経路に移るときに、駅が離れていれば、改札を出ざるを得ないという事情は前提にされていると読むことができます。
JR自体が選択乗車の制度を認めていながら、事実上、できないような矛盾した措置はとるべきではありません。101キロ以上の乗車券であっても、新岩国で錦川鉄道に乗ったり、岐阜から名鉄に乗る旅客は、自ら望んで途中下車をしたというより、接続のためやむを得ず下車したわけなので、本条にいう「一時出場」として扱うべきなのです。横浜線は、たまたま改札内乗り換えが可能なJRが存在しただけですよね。単に物理的に改札をでる羽目になっているだけなのに旅客に損失を被らせるのは適切ではありませんね。
したがって、JR東海の判断が正当であると思料します。まあJR西日本に金返せとはいいませんが、制度趣旨はきちんと理解して運用してほしいですね。
ちなみに、新横浜の場合は横浜線があるので、地下鉄などで移動するための一時出場を認めないという解釈は成り立つとはお思いますが、制度に統一感がなくなるので、こちらも地下鉄利用のための一時出場は認めるべきでしょう。
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本ブログはここで終わりません。やってみました。
名古屋→西岐阜の乗車券です。あっさりハンコ押されて出してもらえました。なお、菱形の特別下車印の設置はないそうです。
ちなみに山陽新幹線の新下関と博多の間は、JR九州の運賃値上げのときから別経路の扱いになっていますので、ちがう経路で行く場合は区間変更が必要になってきます。