旅と鉄道の美学

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【切符系】 マニアックすぎるネタ 乗車券の○ム(マルム)表記は何?

  今回のテーマはこちら。

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 「マ・ル・ム」です。

 マニアックすぎて、まったくPV数が増えそうにないお話です。現役の鉄道員やディープなマニア層向けにも書いているブログなので、たまには深すぎるネタを入れ込みます。ライトな鉄道好きの方々は、JRの田舎路線に乗って、委託駅のおばちゃんから乗車券を購入する機会でもあったら券面を見てみてください。ここに書いていることの意味が分かると思います。

  

 まずは原物から見てもらいましょう。 

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 鉄道での旅に慣れた方は分かるかもしれません。上に挙げた駅は、どこも長距離の乗車券を売ってそうにない駅ばかりですよね。たとえば銀山から西大山(鹿児島県)まで行こうとしたときに、どう考えても、あの雑貨屋さん(下記参照)で西大山までの乗車券を売っているとは思いませんよね。   

 

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 最近ではこのような大きな駅でも、合理化により窓口が廃止されてマルムになっています。

 

 以上のような場合に旅客に損をさせないためになされているのが、マルムです。この表示があると、限定された区間の乗車券しか売らない駅から乗車した証明になるので、その先で優遇されるわけです。例えば、銀山から101キロ以上先の駅までとりあえず乗車券を購入して、車掌に申し出て、西大山まで乗り越したとします。通常、101キロ以上の乗車券で乗り越すときは、いったん打ち切って運賃を計算します(打ち切り計算)。しかし、マルムがついている乗車券の場合は、損をさせないように発駅である銀山から西大山という売り方をして(発駅計算)、銀山で支払った分を差し引きます。 

 よくできているでしょ。さすが国鉄官僚が考えた仕組みです。

 

 営業規則上は、下記の文言(第2項)が根拠となります。

 

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(普通乗車券の特殊発売)
第27条
旅客が列車内において普通乗車券の発売を請求する場合、当該列車の係員が携帯する普通乗車券ではその請求に応じられないときは、普通旅客運賃(旅客が旅客運賃割引証を所持する場合又は旅客の請求する区間について旅客運賃割引の取扱いができる場合であっても、無割引の普通旅客運賃)を収受して、係員がその携帯する普通乗車券によって乗車方向の最遠の駅又は乗継駅までのものを発売し、同乗車券の券面に、途中駅まで発売した旨を表示する。
2
前項の規定は、第21条の2の規定により乗車券の発売区間に制限のある駅において、その発売区間外の普通乗車券の発売の請求があった場合に準用する。
3
前各項の規定によって発売した乗車券を所持する旅客に対しては、前途の駅又は車内において、これと引換に旅客の請求する区間の普通乗車券を発売する。この場合、既に収受した旅客運賃と旅客の請求する区間の普通旅客運賃(旅客が旅客運賃割引証を提出した場合又は旅客の請求する区間について旅客運賃割引の取扱いができる場合は、割引の普通旅客運賃)とを比較して不足額を収受し、過剰額は駅(取扱箇所が車内の場合にあっては前途の駅)において払いもどしをする

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 上記の規則に基づいて事務取り扱いを定める基準規程の方は、44条で、「規則第27条第1項又は同条第2項の規定により普通乗車券を発売する場合は、その乗車券の表面に「○ム」の表示をして発売するものとする。この場合、前途の駅又は車内においてその乗車券と引換えに旅客の請求する全区間の乗車券を発売する(以下これを『買替え』という。)旨を案内しなければならない。)

 となっています。これが乗車券に表示されているのですね。

 

  私鉄のマルム券

 

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 最近目にしたのがこちらです。阿佐海岸鉄道自体はJR四国全域と連絡運輸を行っていますが、甲浦駅は限定された乗車券しか発売していません。この場合に身障者割引などを適用する場合は、いったん列車に乗り、宍喰駅(普通は下りませんね。)か牟岐線の車掌などに頼んで乗り越しの乗車券(区間変更券)を購入することになるので、不利にならないようマルムと表記しているのでしょう。


 

  車内補充券のマルムについて

 

 上記の条文で、青色の下線部に着目してください。「当該列車の係員が携帯する普通乗車券ではその請求に応じられないとき」とあります。

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 このように地方路線の車内乗車券(車内補充券)には、マルムの表記があり、長距離や複雑な乗車券を売れない場合はマルムに入鋏することもあったようです。参考書の事例をみると限定的な乗車券しか所持していない国鉄バスの車掌の例が多かったようです。ちなみに国鉄時代はバスも鉄道も区別なく一括で全国発売できるシステムです。

 列車の車掌の方は原則として、全国どの駅までも売れる乗車券を持っていましたから(※)、マルムで売るとしたら、経路が複雑で車内では計算している時間がないようなときに取り敢えず乗り継ぎ駅まで売っておくという方法だったのだと思います。先ほどの銀山の例だと、函館まで売って、函館駅で西大山まで乗り越しの乗車券を買いなおしてくださいみたいな。

 ※普通列車だけに乗務する「普通車掌」の場合は、車掌長や乗客専務車掌と違って、上のような限定された乗車券しかもっていない例もあったようです。

 

  JRバスのマルム

 

 これはJRバスのターミナル(規則上は「自動車線」の「駅」)で乗車券を売っていた草津温泉駅の乗車券です。 

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 これにもマルムの表記がありますが、おそらく1988年の分社化前に作製された乗車券だろうと思います。分社化前はJRの鉄道と自動車線は一体として乗車券を発売できるシステムなので、長距離客に不利にならないようマルムだったわけですね。

 

 

  携帯の圏外なのでマルム

 

 これってまさに現代的なマルム話です。IT先進会社のJR東海でマルム乗車券が登場していました。 

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  このように何故かマルムです。車掌のもっている車内補充券発行器(車発器)は全国のどの駅までも発売できるはずだったのですが、どういうことでしょうか。気になったので理由を尋ねてみました。すると、名古屋ぐらいまでは車発器のメモリに入っているようですが、それを超えると携帯の通信回線を通じてサーバにアクセスして計算結果がでるようなのです。なので、電波が届かないような山間部だと、長距離乗車券は発行できないことがあり、メモリに入っているだけのデータで発行するときはマルムと入るようです。

 

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 ちなみにこちらはJR東海本社のサーバにアクセスしてから発行されたものです。マルムではありませんね。発行時はトンネルだらけで、通信が途切れるため、車掌さんも焦っていました。この車掌さんは伊那松島運輸区の方で、少し先の中部天竜豊橋運輸区の方に交替でしたからね。結局、中部天竜の一つ手前の佐久間で圏内になり、サーバにつながってなんとか発行できたようです。